通り魔、明日は我が身? ―求められる疎外された人々への理解

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 10月31日、東京京王線の国領駅付近で、切りつけ事件が発生した。容疑者は電車に放火も行なったが、友だちが少ない、仕事がうまくいかなかったことなどを犯行の理由として述べているそうだ。「通り魔」的犯行だが、こうした事件は日本だけで発生しているわけではない。

 2001年の「911同時多発テロ」事件以降、ムスリム(イスラム教徒)がテロを起こすとその宗教であるイスラムに動機を求める場合が多い。2018年9月9日、パリ19区でナイフと鉄パイプで、イギリス人観光客2人を含む7人を襲撃した容疑者はアフガニスタン国籍をもつ男だったが、フランス当局は過激派のテロではなくて、通り魔事件として処理した。

 その2年前の2016年7月18日、ドイツ南部ビュルツブルクでアフガニスタン出身の難民の少年(17歳)が列車内で斧(おの)やナイフで乗客を襲い、少なくとも4人が重傷を負った。列車が停車後に逃亡しようとした少年は警察によって射殺された。

 こうした事件が発生すると、イスラムは危険という見方がヨーロッパだけでなく、事件のニュースが伝えられる日本でももたれることになる。

 2019年夏に東京・浅草モスクを訪問したが、近隣の警察署から警官が毎週金曜日の集団礼拝にやって来るということだった。この警官はムスリムではないので、東京オリンピックを前にしてモスクの活動の監視が目的だったのだろう。日本にもイスラム=危険な宗教であるという固定観念が一部で定着し、その傾向がSNSなどによっていっそう強まっていると在日のあるムスリムは語っていた。

ヨーロッパで発生するムスリムによる通り魔事件は宗教によって動機づけられるものではない。ヨーロッパ社会で疎外され、白人のコミュニティに融合できない、白人よりもよい就職の機会を与えられない、貧困の下に置かれているなどの理由で半ば自暴自棄になって通り魔事件を起こす場合がある。

 ISなどの過激派のメンバーたちも同様な理由からその活動に参加する場合が多い。シリアに向かった「ジハード戦士」が読んでいたイスラム関連の本が『Islam for Dummies(アホにもわかるイスラム)』というレベルだったこともあり、宗教に対する深い造詣があるわけではなかった。また、ヨーロッパ出身のISのメンバーたちにはバーに入り浸っていた者たちもいて、彼らは敬虔なムスリムではない場合が多い。

 2017年8月にフィンランド南西部のトゥルクでモロッコ系の男による刃物の殺傷事件が発生し、2人が犠牲になった時、周辺にいたムスリム移民たちがカバンや椅子で男を取り押さえたこともあった。ムスリムが暴力を好むというのは著しい偏見で、朝起きて欧米人をやっつけようなどと思うムスリムは当たり前だが、ほとんどまったくいない。

 フィンランドの首都ヘルシンキで暮らすシリア難民を描いた作品にアキ・カウリスマキ監督の作品「The Other Side of Hope(ジ・アザー・サイド・オブ・ホープ)」があり、2017年のベルリン国際映画祭の銀熊賞部門の監督賞を受賞した。シリア・アレッポ出身の難民の青年カレドは命からがらヘルシンキまでやって来たが、アレッポは安全だという理由で強制送還されそうになるが、直前に収容所から脱走する。路上生活を送り始めると、極右グループからも暴力を受ける。しかし、地元のレストランを経営するウィックストームに助けられてそこで働くことになるが、二人は売り上げを好転させるためにレストランを寿司屋にしてしまう。そこでワサビを異様に多くつける寿司屋として人気を博していくというコメディだ。

 カウリスマキ監督はこの映画を観た人たちの難民への見方を変えたい、世界を変えたいと語った。ベルリン国際映画祭の上映後の記者会見では「この作品を見た人たちに、我々はみな同じ人間で、難民になるのは、明日は我が身であるかもしれないと思ってほしい」と述べた。カウリスマキ監督の言葉を借りれば、「通り魔」のような境遇になる可能性は誰でもあり、彼らもみな同じ人間というだが、疎外された人々に寄りそう心情や行動が社会には求められているのだと思う。

写真は 京王線通り魔事件

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