映画「1900年」が教えるファシズムの世界とイタリアン・ファシズム、ファシズムが台頭する世界

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 今年はベニート・ムッソリーニ(1883~1945年)のファシスト党が1922年10月にローマ進軍を行い、政権を掌握してからちょうど100年に当たるが、イタリアではネオ・ファシストの政党「イタリアの同胞」による政府が成立する。また、ネオ・ファシズムはインドのようなアジアの国でも台頭し、それをめぐる対立はイギリスのインド人移民社会などにも波及し、イギリス各地でヒンドゥー至上主義者はインド出身のムスリムたちを暴力的に襲撃するようになっている。

1922年10月ムッソリーニとファシスト黒シャツ隊の「ローマ進軍」(WIKIMEDIA COMMONS)©Public Domain


 ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画「1900年」(1976年制作)では20世紀イタリアの政治・社会的変動がポー川沿いの一つの農村を通じて典型的に描かれる。1900年の同じ日に生まれた地主の息子アルフレード(ロバート・デ・ニーロ)と小作人の息子オルモ(ジェラール・ドパルデュー)は幼なじみで、線路に横たわって肝試しをしたり、カエルを捕まえたりするなど一緒に仲良く遊んでいた。しかし、共産党やファシスト勢力の台頭というイタリアの現代史の展開は二人の運命を変えていく。地主のアルフレードにはファシストの黒シャツ隊の横暴や暴力を抑える勇気がなく、他方小作人のオルモは農民運動を指導していく。アルフレードの進歩的な妻のアーダ(ドミニク・サンダ)は夫のファシストたちに対する弱腰の姿勢に失望していく。ムッソリーニが幽閉され、ファシスト政権が崩壊すると、アルフレードは人民裁判にかけられ、オルモはファシズムからの解放を喜ぶ。イタリア北部の農村風景がビットリオ・ストラーロ撮影監督の手腕によっていっそう美しく引き立てられ、またエンニオ・モリコーネの音楽が映画の美的世界を強く印象づける。

映画「1900年」
https://popmaster.jp/news/news20220307-2/


 第一次世界大戦後のイタリアは、途方もないインフレで国民の生活は破綻し、政府への広範な不信が広がっていた。社会主義者たちはストライキなどで工場を占拠し、ブルジョワ保守層はロシア型の革命が起きるのではないかと不安を抱くようになった。イタリアのファシズムを推進したムッソリーニは、1920年代から組織化され、社会主義者たちを暴力的に襲撃した「襲撃隊」という民兵組織を傘下に置き、それをファシスト運動の母体として1921年10月に「全国ファシスト党」を結成した。ファシスト党は1922年10月28日に「ローマ進軍」を行い、これに圧倒された国王はファシスト党に組閣を命じることを余儀なくされた。ファシスト党はローマ帝国の栄光の復活を訴え、農民運動や労働運動を暴力で弾圧して、ブルジョワ保守層や中産階級の支持を得ていった。


 イタリアの総選挙でジョルジャ・メローニ党首(45歳)の「イタリアの同胞」が第一党となった。この政党はムッソリーニの一部の親族が指導的立場にあり、ネオ・ファシスト、ポピュリズム政党などと形容されている。イタリアの利益をヨーロッパのそれよりも優位に置き、不法移民に対する「寛容ゼロ」の主張を行う。「イタリアの同胞」の勝利は反移民(主にムスリム移民だが)を背景にするヨーロッパの右傾化の傾向を示している。イタリア各地では映画「1900年」のように、ポピュリズムが浸透するようになっている。


 同様にイギリスではインド人移民の間で、ヒンドゥー至上主義が強まり、インドのモディ首相の出身組織である極右の「民族義勇団」がイギリスに住むインド出身のムスリムを襲撃するようになった。このヒンドゥー至上主義の組織は20世紀のファシズムをモデルに結成されたものだ。「民族義勇団」のメンバーがガンジーを暗殺したが、モディ首相の「インド人民党(BJP)」は「民族義勇団」の政治部門だ。こうした移民の間の暴力の応酬もヨーロッパの「イタリアの同胞」のような白人至上主義や極右の台頭を促進する要因になるに違いない。
アイキャッチ画像はジュゼッペ・ペッリッツァ・ダ・ヴェルペード(1869年~1907年)の「第四身分」
映画「1900年」の冒頭で使われる
http://blog.livedoor.jp/aara/archives/50053163.html

地主の息子アルフレード(ロバート・デ・ニーロ)と小作人の息子オルモ(ジェラール・ドパルデュー)
https://www.listal.com/viewimage/24837173
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