地中海地域・アンダルス(スペイン)で共存していたアラブ人とユダヤ人

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 イスラエル・ネタニヤフ首相はオスロ合意をことごとく無視し、ヨルダン川西岸に入植地を拡大したり、パレスチナ問題の1国家解決を考えたりしている。


 1948年にイスラエルが成立すると、イスラエル国内に置かれたパレスチナ人たちは社会的上昇性がなかったり、占領下に置かれるパレスチナ人たちは移動を極端に制限されたりしている。


 イスラム世界ではユダヤ人は、同じ聖典を共有する「啓典の民」としてイスラム支配に従い、税を納める限りは「被保護民(ズィンミー)」としてムスリムにはユダヤ人たちを保護する義務がある。


 ユダヤ人たちは、ウマイヤ朝、アッバース朝などのイスラム帝国の統治の下に置かれたが、これらの王朝以外でイスラム支配に最初に遭遇したのは、イフリキーヤ(現在のチュニジアからアルジェリア東部あたりを指す地名)が最初であった。イフリキーヤを支配したファーティマ朝(909~1171年)のユダヤ人への扱いは実に寛容なものだった。イフリキーヤは、地中海地域のキャラバン(隊商)や航路が行き交うところで、スペインからインドに至る貿易拠点でもあった。この通商においてユダヤ人たちは顕著な役割を果たしていた。カイラワーン(チュニジア中部に位置する北アフリカ最古のイスラム都市)出身のユダヤ人商人たちはカイロのゲニザ文書にも多くの記述がある。カイラワーンは、ユダヤ人たちの精神的、知的活動の中心となっていった。


 さらに、イスラム世界がイベリア半島にまで拡大するとアンダルス(イスラム・スペイン)は、ユダヤ人たちは経済的にも、文化的にもまた政治的にも成功を収めていくようになる。


 ユダヤ人のハスダイ・イブン・シャプルト(915年頃~975年頃)は、後ウマイヤ朝の首都コルドバで活躍した医師、学者、政治家で、アブド・アッラフマーン3世に評価されて宮廷医、ワズィール(廷臣)を務め、ユダヤ人学者やユダヤ人詩人を保護、奨励した。ユダヤ人詩人ドゥナシュ・ベン・ラブラート(920~990年)はユダヤ詩の中にアラブ詩の韻律を加え、世俗的テーマを詩作の中に採りいれた。


 1031年に後ウマイヤ朝が崩壊し、各都市に小諸王が割拠する群小諸王(ムルーク・アッ=タワーイフ)の時代になると、ユダヤ人たちはこれらの諸王たちに重用されるようになり、宮廷で活動するようになり、支配層としてアラブ人の君主を補佐するとともに、アラブの世俗的文化とユダヤ人の信仰文化を融合していった。セビリアを首都とするアッバード朝(1023~1091年)の時代にイブン・ムハージル(1100年頃没)は、「ワジール(大臣)の称号を与えられ、第三代君主のアル・ムタミッド(在位:1069~1091年)に仕えた。彼はまたタルムード(ユダヤの立法)の中に見られる天文学の研究者でもあった。

スペイン・セビリア
https://www.insider.com/best-place-to-travel-in-2018-seville-spain-photos-2017-11?fbclid=IwAR06d1irW-AmDipRxSCacdlMzld5_870E47EPqQCVrsaGvQo1MBRbgMGlpI


 「イスラム王朝は、ユダヤ教徒に対しても差別しなかった。むしろ彼らを重用したのであった。だから、イスラムのスペインにあって、キリスト教徒から自発的にイスラムに改宗した人もいれば、両者の通婚も自由であった。こうして時代がうつって行くと、イスラム教徒もキリスト教徒も次第に、スペイン人としてのアイデンティティをもつようになり、両者ともに近代スペイン語の先祖であるロマンス語とアラビア語の二カ国語を話すようになり、これが複合し熟成して行って、語彙の10パーセントがアラビア語源、あるいはそれとの複合語である現行スペイン語が出来ていったのである。イスラム教徒は如何なる意味でも“外敵”ではなかった。(後略)」   ―堀田善衛著『ゴヤⅠ スペイン・光と影』


 こうした寛容性は今のイスラエルには欠けるが、パレスチナ人を差別することなく、彼らとの共存を考え、特にイスラエル国内にいるパレスチナ人たちを社会に円滑に統合し、また、ヨルダン川西岸やガザ地区の社会・経済的発展を意図していったほうがイスラエルの安全をより確実にすることになることは間違いない。


アイキャッチ画像は、チェスに興ずるムスリム(右)とユダヤ人
13世紀、アンダルス
https://www.pinterest.jp/pin/357754764130382692/

スペインの女優
ブランカ・スアレス
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