スカーフの強制着用に抗議するイランの女性たち

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Translation / 翻訳

 9月22日、イランの首都テヘランでマフサー・アミーニーさん(22歳)が宗教警察(指導パトロール:ペルシャ語でガシュテ・エルシャード)にスカーフのかぶり方を問題にされて逮捕された上に亡くなるという事件が発生した。髪の毛の隠し方が不十分という理由だった。マフサーさんは両親とともにクルド地域のサッケズからテヘランを訪れていた。宗教警察の暴力によって死亡したと見られているが、当初警察はアミーニーさんが心不全で亡くなったと発表した。


 これに対して彼女の生まれ故郷であるサッケズなどで暴動が発生し、イラン各地に波及し、「イランの女性たちは抑圧されている」などのスローガンが叫ばれた。
https://twitter.com/HoushangIrani/status/1570793551180738561 デモはアミーニーさんの死去から今日まで5日間継続している。

イランの暴動
https://www.iranintl.com/en/202209200749


 野党勢力などから女性のスカーフ(ヒジャーブ)やベール(チャードル)の着用は強制すべきではないという声も上がっている。同様に、国際的な人権組織のヒューマン・ライツ・ウォッチも女性の権利を奪う法律の廃止を主張した。事態を受けてイラン政府はテヘラン地区の宗教警察のトップを解任した。


 スカーフの強制着用はあるが、イランは女性の社会的進出は進んでいる国だ。副大統領にも女性が就いてきたが、モーラヴェルディ・イラン女性・家庭環境担当副大統領(当時)は2017年2月に同志社大学で次世代の子どもたちを育成するという観点から教育や研究における女性たちの役割を重視することが必要であり、イランではジェンダー平等が達成されつつあると語った。イランでは大学教育でも男子学生53%、女子学生47%とほぼ同数である。女性の大学生が多いことも今回のベール着用の強制に対して大学が中心となって反発の声が上がることになった。


 暴動が発生するのは、2015年にイランに対する制裁を解くことになっていたイラン核合意から米国のトランプ政権が離脱してイランに制裁を科し、バイデン政権になっても核合意の再建が実現していないという要因も大きい。イラン経済が米国の制裁によって苦境にあり、暴動は国民のいら立ちを表していることも確かだ。核合意再建の交渉が円滑に進展せず7月末の食料価格は昨年の同時期に比べて100%も上がった地域もあった。
https://www.iranintl.com/en/202208010091


 イランを訪ねると、世俗的な女性はカラフルなスカーフを着用し、髪の毛を多く見せているのに対して、保守的なテヘラン南部や地方を訪ねると、黒いチャードル(ベール)を着用する女性が多いことに気づく。服装は人の内面に関わると思うのだが、画一的な装いに抵抗する女性たちにはファッションの楽しみが奪われるという想いが強くあることは間違いない。(ファッションと心理の関係については日本でも様々な論稿があるようだ。ごくごく一部だが https://www.galleria-f.net/2018/04/04/11-merit/  などがある。)


 イランではパフラヴィー朝の初代国王レザー・シャー(在位1925~41年)の時代の1936年に世俗化政策の一環としてベール着用を禁止したが、1979年のイスラム革命によって一変した。革命が成立した1979年2月に即座に女性のベール着用が義務付けられたが、これに対して同年3月8日の国際婦人デーにベール着用に抗議する女性たちのデモが起こった。その後、ベール不着用の女性たちが公的機関に入ることが禁じられるなど服装コードについては厳格な措置が採られていった。

ヒジャーブ着用に抗議するイランの女性たち
1979年3月8日
https://en.wikipedia.org/wiki/Kashf-e_hijab


 また、今回のデモは若い女性が警察の暴力によって殺害されたことに対する政治的不義に抗議する幅広い階層の抗議にもなっている。マフサーさんが少数民族のクルド地域の出身ということもあって、デモにはクルド人たちのイラン中央政府への不信や不満になっても表れている。
 イランの現代詩の女流作家スィーミーン・ベフバハーニー(1928~2014年)には「祖国よ、再び君を!」という作品の中で、次のように政治改革への希求を語っている。


いまだ胸の中に炎が燃え盛り
その炎は 周囲の人々の熱意がある限り
 弱まるはずは決してない
再び力を授かろう
 たとえ私の詩が血となろうとも
再び君を造ろう! この身に代えて
 たとえこの力の限界を超えても


また、ベフバハーニーは「ジプシーの如く」(14)では
過去の数世紀続く圧政は
お前の骨の髄にまで浸みているので
この腫れ物を 時代のメスで
刺すくらいでは取り除けない


と自由への変革への意思を強調して表現している。
〔出典〕鈴木珠里ほか共訳『現代イラン詩集』(新・世界現代詩文庫8)土曜美術社出版販売(2009)
アイキャッチ画像はマフサー・アミーニーさん
髪の毛が多く見えることを除いて地味に見えるのだが・・・
https://twitter.com/AlinejadMasih/status/1570104003022950401

ムスリム女性(ムスリマ)の衣装
https://twitter.com/gerogeror/status/1255808335212802049
おしゃれな感じの人も多い
イランの女優ナーザニーン・バヤーティ
https://www.pinterest.jp/pin/707980003903577516/
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