真宗大谷派は2015年5月21日、日本国憲法の立憲の精神を遵守する政府を願う「正義と悪の対立を超えて」という声明を出し、「安全保障関連法案」への反対を鮮明にした。
声明には「私たちの教団は、先の大戦において国家体制に追従し、戦争に積極的に協力して、多くの人々を死地に送り出した歴史をもっています。その過ちを深く慙愧する教団として、このたび国会に提出された『安全保障関連法案』に対し、強く反対の意を表明いたします。(中略)そして、この日本と世界の行く末を深く案じ、憂慮されている人々の共感を結集して、あらためて『真の平和』の実現を、日本はもとより世界の人々に呼びかけたいと思います。(中略)
戦後70年間、この世界から国々の対立や戦火は消えることはありません。
このような対立を生む根源は、すべて国家間の相互理解の欠如と、相手国への非難を正当化して正義を立てる、人間という存在の自我の問題であります。自らを正義とし、他を悪とする。これによって自らを苦しめ、他を苦しめ、互いに苦しめ合っているのが人間の悲しき有様ではないでしょうか。仏の真実の智慧に照らされるとき、そこに顕(あき)らかにされる私ども人間の愚かな姿は、まことに慙愧に堪えないと言うほかありません。(中略)人と人が水平に出あい、互いに尊重しあえる『真の平和』を、武力に頼るのではなく、積極的な対話によって実現することを世界の人々に強く提唱されるよう、求めます。」とある。
http://www.higashihonganji.or.jp/news/declaration/10924/

植木等が所属したクレージーキャッツの60年安保闘争に関するコント(「おとなの漫画」)に次ぎのようなものがある。
兄(ハナ肇)がデモ隊を取り締まる警官役で、その弟で反安保のデモ隊員(谷啓)が衝突の中で出合ってしまう。
兄「おまえ何やってんだ?!」
弟「兄さんこそ!」
ここでオチがつくはずだったが、尺が余ると、ハナ肇がとっさに制服を脱ぎ捨て、それを靴でバタバタと踏みつけ、「アンポ反対!」と連呼した。放送直後に右翼の街宣車が放送局に乗りつけ抗議したという。
植木等は浄土真宗の寺の生まれで、寺の住職であった父の徹誠(てつじょう)氏は大ヒットした「スーダラ節」の「わかっちゃいるけどやめられない」というフレーズを聞いた時にそれは親鸞の教えに通ずるものがあり、人間の弱さを言い当てていると絶賛したそうだ。
親鸞の思想の一つに「悪人正機説」があり、善人は自力で修行する人、悪人は煩悩をもつすべての大衆のことをいう。人は皆平等に悪人で、その自覚がない善人ですら往生できるのだから悪人であることを自覚した他力信仰者の往生は疑いがない。「善行」を積むことができず、悪人であると気づいた者こそが救いの対象であるというのが親鸞の考えだったが、諸説あるものの、大衆に対する蔑視を捨てた平等思想であるとも解されている。植木等の「等」という名前も父・徹誠氏の「人間平等」の考えに基づいていた。
徹誠氏は、戦時中、檀家の人が、召集令状が来たと言って挨拶に来ると、「戦争というものは集団殺人だ。それに加担させられることになったわけだから、なるべく戦地では弾のこないようなところを選ぶように。周りからあの野郎は卑怯だとかなんだかといわれたって、絶対、死んじゃ駄目だぞ。必ず生きて帰ってこい、死んじゃっちゃあ、年とったおやじやおふくろはどうなる。それから、なるべく相手も殺すな」(植木等『夢を食いつづけた男』(朝日文庫、1987年)言うまでもなく、仏教では殺生を禁じている。
植木家は仏教の平等や平和思想を体現していた家庭であったが、この仏教思想も人種差別現象が見られ、またテロに震撼する現代の国際社会は確認すべきものだろう。

アイキャッチ画像は https://amass.jp/93336/ より
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