作家・井上ひさし氏が日本の「平和力」の中で紹介した中村哲医師の井戸掘り事業

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作家の井上ひさし氏が郷里の山形県置賜農業高校で2001年11月17日行った講演が中村哲医師の『ほんとうのアフガニスタン』という本の冒頭に載せられている。井上氏は、農業という産業に親近感を示し、農業は人を助ける、人のために大事な食べ物を提供する重要な仕事だと表現している。911の同時多発テロが発生してから2か月後くらいに行われた講演で、農業から平和を創造することができると説かれている。農業を大切に感じていた井上氏の夢は夏の高校野球甲子園大会の決勝で農業高校である新潟県新発田農業と置賜農業が対戦することだとも明かしている。(2018年夏に吉田輝星投手を擁する秋田県の金足農業が決勝まで進出したが・・・)


 井上氏は地球環境問題に触れてアフガニスタンが大干ばつの中で井戸を掘る中村哲医師の活動がアフガニスタンの人々に生きるモデルを提供していることを強調している。中村医師の活動は、農業国のアフガニスタンで農業の復活と、その実りから人々が食べることに窮することなく、武装集団から食や金を与えられることを考えずに生きる方途を教えていた。


 アフガニスタンの大干ばつという深刻な事態に対して井戸を掘る中村哲医師は、世界の多くの国や地域で井戸堀りを実践する中田正一氏の「風の学校」の事業にも触発されて、井上氏がこの講演を行った頃にはアフガニスタンに1000本の井戸を掘っていた。井戸を掘ると大きな石に遭遇して掘削が止まってしまうことがある。そこで中村医師が思いついたのはアフガニスタンで1980年代の対ソ戦争の際に埋められた地雷の火薬を使って掘削の障害となる石を爆破で砕いて除くことだったと井上氏は紹介している。

吉野作造記念館
井上ひさしと戦後日本の平和
https://www.yoshinosakuzou.info/blank-56


 井戸掘り事業は危険と隣り合わせの作業だった。ある日、井戸の滑車に跳ね飛ばされて現地のアフガン人が井戸の底に落ちてしまった。中村医師たちがその作業員の父親にお悔やみを述べに行くと、父親は「こんなところに自ら入って助けてくれる外国人はいませんでした。息子はあなたたちと共にはたらき、村を救う仕事で死んだのですから本望です。 全てはアッラーの御心です。…… この村には、大昔から井戸がなかったのです。みな薄汚い水を飲み、わずかな小川だけが命綱でした。…… その小川が涸れたとき、あなたたちが現れたのです。しかも(その井戸が)ひとつ二つでなく八つも…… 人も家畜も助かりまし た。これは神の奇跡です」と述べたというエピソードも井上氏の講演の中で触れられた。


 1989年2月にソ連軍がアフガニスタンから撤退すると、多くの外国のNGOがアフガニスタンにやってきて支援活動を始めたが、湾岸戦争で外国人が標的になるという噂が広まると、あっという間に多くのNGOがアフガニスタンから引いていった時期に中村医師は井戸掘りの活動を継続していた。
 海外で困難にある人を救うというのは日本人が一番多いのではないかと井上氏は述べているが、アフガニスタンにとどまって井戸掘りを続けた中村医師の活動は日本の平和力を典型的に表し、アフガニスタンや世界に示すものだと井上氏は確信していた。今日のメルマガでも触れたが、置賜農業での講演の中で「戦争がはじまると他の国のボランティアは、みんな逃げてしまうのに、なぜ日本人のこのお医者さんのグループはやさしくしてくれるんだろう。こうして日本人に対する信頼が生まれていくわけですね。」と中村医師のことを述べている。https://miyataosamu.jp/protect-everyday-life-appealed-by…/
山形県立置賜農業高校で講演し、中村哲さんについても語る井上ひさしさん=2001年11月17日撮影、置賜農業高校提供


 井上さんはそれ以前から中村さんの活動に関心を抱き、著書「医者 井戸を掘る」を読んで、すぐにペシャワール会に入会したほどだったという。同月に山形県立置賜農業高校(川西町)で講演した際には「世界で最も貧しい国で、自分の持っているものをすべて注いでその国の人たちのために尽くしている一人の医師」と中村さんを紹介し、「この世はお金だけではない」と生徒たちに呼び掛けた。
https://mainichi.jp/articles/20191212/k00/00m/040/209000c

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