アラブで語り継がれる「ヒロシマ」と日本の戦後復興

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国際支援に依存してはならない

 2015年、8月6日にヨルダン川西岸の小劇場で、地元の若者たちが朗読会「ヒロシマの孫たち」を催した。「毎日新聞」の大治朋子記者の記事によれば、観劇した子供たちからは原爆の惨禍からも立ち直った日本への敬意が聞かれたという。劇場の代表は「犠牲者だと言うのは簡単。でも自分たちにも問題がないか、政治腐敗はないか、(国際支援への)依存はないか、考えないと」と語ったという。

モロッコ作家が見た日本の戦後復興

 ヒロシマはイスラム世界では常に意識され、蜂谷道彦氏の『ヒロシマ日記』もアラビア語に訳された。日本の戦後の復興への称賛は、戦前からの日本の発展に対する肯定的な評価を引き継ぐものでもある。モロッコの作家アブド・アッラー・アル・アルウィーAbdallah Laroui(1933年生まれ)は、その小説『紙束』(1989年)の中で「日本が成し遂げたことを我々の国は成し遂げることができるだろうか。(中略)彼らは50年間築いたものを失ったが、彼らの生きた期間は栄光に満ちていた。日本の歴史は暗黒の期間においてさえ輝かしい。モロッコは(外国支配から)自由になったとして、果たしてこの段階まで昇ることができるだろうか。」(杉田英明『日本人の中東発見』東京大学出版会、1992年)

Morocco Jewish Times『Abdallah Laroui: The Loyal Man to History
モロッコの作家アブド・アッラー・アル・アルウィー氏

ヒロシマ賞 -「回復力と復興への期待」

 広島市は2015年10月、現代美術の分野で世界平和に貢献する創作を行った作家に贈られる「ヒロシマ賞」の第10回受賞者を、レバノン出身のモナ・ハトゥームMona Hatoum氏(1952年生まれ)に決定したと発表した。

ハトゥーム氏はレバノン・ベイルートで生まれたが、彼女の両親は一九四八年の第一次中東戦争の際に難民となったパレスチナ人である。

 1982年にイスラエル軍がレバノンに侵攻すると、ハトゥーム氏は「交渉のテーブル」と題する、自らの体を使って暴力、抑圧、監禁、難民などをテーマとする作品を創作した。

 1975年にロンドンに短期滞在している時に、レバノンで内戦が発生し、それ以来ロンドンを拠点に生活、活動するようになった。つまり、彼女は2度目の難民体験に遭遇することになったが、それが彼女の「インスタレーション(空間展示)」や映像などの芸術作品のモチーフとなっている。

 ハトゥーム氏は、「ヒロシマの経験は悲しく最悪の時を思い起こさせます。しかし、回復力と復興は我々人類を鼓舞する希望の心を体現しています」と語る。ハトゥーム氏の受賞が、ヒロシマの「回復力と復興」を、中東の紛争地の人々にあらためて思い起こさせる機会になればと思う。そのための重大な責任があることを、この地域の政治指導者たちは強く自覚してほしい。

ヒロシマはナショナリズムの手段ではない

 広島の原爆投下から76年が経った。2013年8月にオリバー・ストーン監督とともに、広島を訪れたパレスチナ人の平和・人権活動家マーゼン・クムスィーヤ氏は、広島を訪問した印象を下のように語っているがパレスチナ問題の本質や世界の紛争の背景を知る上で貴重な示唆を与えているように思う。

AGITATE!『Palestinian In Hiroshima, By Mazin Qumsiyeh
マーゼン・クムスィーヤ氏、広島平和記念公園にて

広島の原爆死没者慰霊碑からは、ナショナリズムや戦争(を肯定する)気配はまったく感じられません。・・・広島の事例は、戦争の犠牲者であっても、(加害者への憎しみを植え付け、武力と団結の必要性を強調する)戦争やナショナリズムが(将来の悲劇を繰り返さないための)解答ではないと理解することが可能だということを示しているのです。そこで私は、世界のより多くの人々が、広島から学ぶことで、多くのホロコースト博物館が醸し出しているシオニズムと戦争を肯定する誤ったメッセージを変革し、それに代わって、平和を支持する構造を築き上げていってほしいと切に願うものです。

マーゼン・クムスィーヤ
映画「ひろしま」予告編
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