現代イスラム研究センターの水谷周理事は『集団的自衛権とイスラム・テロの報復』(青灯社)の中で次のように語っている。

「アラブ・ムスリムから見れば、長い間日本は友好的でかわいい兄弟のような存在であったということは、広く知られている。「ヤーバーン・クワイエサ(日本は善良だ)。」という言葉は、お世辞ではなく道行く市民や大学仲間たちから普通に耳にする声であった。(中略)
そのような友好ムードの要因を振り返ってみよう。その背景としてはよく言われることだが、日露戦争で非西欧国家としてはじめて日本が欧州のロシアに勝利したことである。エジプトでは小学校で教えられる詩歌のテーマとなり、さらにはアラブを越えてトルコなどでも同様な扱い振りである。(中略)
それに加えて、日本が営々と積み重ねてきた外交努力がある。なかでもPLO(パレスチナ解放機構)に早くから代表権を認めるなど、その立場に理解を示すパレスチナ問題への取り組み方が、アラブ・ムスリムの琴線に触れるようにして好評を博していたのである。(中略)
最後には、日本同情論がある。訪日するアラブ人には日本は世界唯一の被爆国であるという意識が前面にあり、広島や長崎を訪れる人々が大きな比率を占めているという事実はあまり日本では知られていない。正確な統計はないかもしれないが、関西の観光旅行よりもまず、被爆地が優先されるケースが少なくないのである。
一般的な親日友好ムードは、昨今の日本の安全保障政策の変化によって、相当悪化したからこそ、「イスラム国」の人質殺害に至ったのではないのか。これは普通に湧いてくる設問であろう。」

2015年6月8日に発表されたNHKの世論調査では、安全保障関連法案を今国会で成立させるという政府・与党の方針に「賛成」が18%、「反対」が37%、「どちらともいえない」が37%だった。政府が十分に説明しているかという問いには「十分に説明している」が7%、「十分に説明していない」が56%、自衛隊員のリスクが増えると思うか尋ねたところ、「増える」が72%、「増えない」が6%だった。
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このように、客観的に見ても、安全保障関連法案が国民の支持や理解を得られていないことが明らかだが、安倍首相(当時)は同じ6月8日、G7サミットの閉幕後、ミュンヘンでの記者会見の中で「安全保障法案が違憲ではない」とあらためて述べた。その根拠はまたも「十分に説明していない」ものだった。安全保障法案成立を強行しようとした与党の議員たちは、国民の心情を重視するよりも、「付和雷同」している印象だった。「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず(君子は人と協調するが付和雷同はしない。小人は付和雷同するだけで協調することはない)」とは孔子の言葉だが、「小人」たちは国民と和せず状態にある。そしてこの「付和雷同」が「善良な日本」のイメージや日本国民の安全を損なうことを憂いざるをえない。
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宮本茉由
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