今日は総選挙の日だったが、NHKのページに外交・安全保障政策に関する各党の公約が簡単に紹介されていた。

過日も書いたように小選挙区制では候補者たちが各選挙区で外交・安全保障を選挙民に呼びかけることはごく稀なことだろうが、政府の政策が国民一人一人の安全にも関わることは言うまでもない。
自民党の公約には「防衛費は、NATO加盟国がGDPの2%以上を目標にしていることも念頭に増額を目指す。」とあった。世界第3位の経済大国のGDP2%は防衛費の支出で世界でも有数な国に日本がなることを意味する。しかし、日本は赤字国債の総額が1000兆円を超す国で、防衛費を増額する余裕などないはずで、増額の根拠も明確ではない。自民党内で「GDP2%」についてきちんとした議論があったのだろうか。
昨日も触れた後藤田正晴氏は、「私は昭和5、6年の日本を知っています。満州事変へ突入するときの軍の動き、迎合するマスコミ、それに付和雷同した国民の動きなど、当時の状況と今は何か似ています。日本人の欠点はみんなに流される。『ちょっと待て』『ちょっとおかしいぞ』とはいわないのです。私の世代はもうすぐ滅びます。この5、6年は変革期です。冷静に道を過たず、日本が進むべき道を探っていただきたいと思います。」「このままじゃ日本は地獄に落ちるよ。おちたところで目を覚ますのかもしれないが、それではあまりに寂しい。」(『後藤田正晴 語り遺したいこと』岩波書店、2005年)と語っている。防衛費増額について自民党内で「ちょっと待て」の議論があったのだろうか。
2015年に平和安全法制が成立したのはまさに後藤田氏が危惧した通りだった。世論調査では国民の過半数は反対したのに、与党は民意を無視して強引に可決してしまった。NHKのページで明確に平和安全法制の白紙撤回を訴えているのは、れいわ新選組だけだが、同じ主張の政党は他にもあるだろう。
ヨーロッパ出張中にNHK出版から中村哲医師の『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」』が贈られていた。これはNHKの「ラジオ深夜便」で中村医師が語ったことをまとめたものだが、中村医師は宮沢賢二の「セロ弾きのゴーシュ」とご自身のアフガニスタンでの用水路の建設などの事業を重ね合わせている。セロの演奏が上手ではなかったゴーシュが一生懸命練習していると、狸や野ねずみなどが来ていろんな頼み事をするが、何かしてやらんと悪いかなと応じているうちにセロの腕前も上達するというものだが、中村医師はアフガニスタンでもゴーシュのように、引き下がれんから続けてきたと語っている。
中村医師は『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」』の中でアフガニスタンの親日感情について下のように語っている。
「いままで、あの国は外国の介入で痛めつけられてきた。しかも、アフガニスタンというのは、非常に独立心の旺盛な国民で、おそらく外国の傀儡、あるいは傀儡ととみなされる政権が続いた試しがない。
その中で日本がやれることというのはありまして、現地では、反欧米的色彩が非常に強くて、親日感情が非常に強いんです。
半分、外国人扱いじゃない。それぐらい、日本人というのは、親しみを持って見られるんです。たいてい、どんな山の中に行っても、『日本人だから許す』あるいは『日本人だから泊めてあげる』ということも、外国人なら殺されたって仕方がないような状況でも、助けられてきたということもあります。広島、長崎というのは、どこに行っても知っている。
日本というのは、この五十年以上も戦争をしなかった、平和な、きれいな、豊かな国であると。昔、日本人がスイスに憧れたような、そういうイメージを持っている。それで日本の受けがいい。
そこで日本としては政治的なことに首を突っ込まずに、黙々と建設事業にいそしめば、いい援助ができるんじゃないかと思いますけれどね。」
アメリカの後ろ盾があったガニ政権が容易に崩壊した過程を見ると、外国の傀儡政権は続かないという中村医師の観察はまったく正しかったが、他方、日本は防衛費云々の議論をするよりも「セロ弾きのゴーシュ」のように、もくもくと援助を行って、あるいはまず対話や外交を行い、緊張を除き、他国とより円滑な関係を築くことのほうが、はるかに日本人の安全に寄与することを中村医師の発言や活動は教えている。
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