エルサレム旧市街でパレスチナ人に暴力をふるうイスラエルの極右勢力

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 5月18日、イスラエルの極右勢力は1967年の第三次中東戦争でイスラエルが東エルサレムを占領したことを記念する「エルサレムの日」を祝いながらエルサレム旧市街を行進した。イスラエル全土から極右の若者たちが集まり、数千人がこの行進に参加した。極右政党に属すイタマル・ベングヴィール国家安全保障相(1976年生まれ)やベザレル・スモトリッチ財務相(1980年生まれ)も参加している。


 一昨年は、この「エルサレムの日」での衝突でイスラエル警察がイスラムの聖地であるアル・アクサー・モスクに足を踏み入れて発砲する事態になると、これに抗議するガザのハマスがイスラエルにロケットを撃ち込み、これに対してイスラエルの大規模な反撃を行い、ガザでは250人余りが死亡し、イスラエルでも13人が亡くなった。

このエルサレムのイスラムの聖地にはイスラエル兵は立ち入るべきではない。
https://www.npr.org/2021/05/09/995196563/clashes-between-palestinians-israeli-police-in-jerusalem-leave-many-injured?fbclid=IwAR36zc1GHJezhauhTVtvx-DzvdC2-k8_LiA-3J9LBC-g7WduJ21BzK0mK0o


 昨年のイスラエルの極右の行進では、イスラエル国旗が振られ、旧市街に居合わせたパレスチナ人たちに暴力がふるわれ、また催涙スプレーでパレスチナ人を襲う者たちもいた。「エルサレムの日」におけるイスラエル極右の若者たちの行動は年々過激になり、イスラエルの極右たちはエルサレムがイスラエルのものであることを強調し、イスラムの預言者ムハンマドは死んだなどのスローガンを叫びながら行進を行うようになった。


 極右の若者たちが信奉するのはメイル・カハネ(1932~1990年)という人物のファシスト的イデオロギーであり、現在カハネの思想を代弁する「ユダヤの力(オツマ・イェフディート)」のイタマル・ベングヴィール国家安全保障相は「岩のドーム」やアル・アクサー・モスクなどがあるイスラムの聖地であるハラム・アッシャリーフの敷地内に足を踏み入れるなどパレスチナ人ムスリムを挑発する行為を繰り返している。


 イスラエルの極右の「教祖的存在」でもあるメイル・カハネは1932年にニューヨーク・ブルックリンで生まれ、ユダヤ教の聖職者ラビだったが、1971年にイスラエルに移住した。同年にカハネは政党「カハ党」を結成し、イスラエル国内やヨルダン川西岸などの占領地からのアラブ人の徹底した排除や排斥を訴えるようになった。カハ党は特に若者たちの支持を集めていったが、そこには中東戦争などで軍役についたイスラエルの若者たちのやり場のない閉塞感や疎外感があった。カハネは、パレスチナ・アラブ人たちはイスラエルや占領地から出ていくべきだが、どうしても残るという場合は、パレスチナ人たちは特別な税金を払うか、ユダヤ人の奴隷にならなければならないと説いた。

イスラエルのユダヤ国家法(イスラエルはユダヤ人によってのみ成り立つという法律)が人種主義だと批判するナタリー・ポートマン
https://twitter.com/rt_com/status/1073650077036670979


 カハネは1990年にニューヨークでエジプト人青年に射殺され、また息子で、カハネの運動を継いだビンヤミン・ゼブ・カハネも2000年末にパレスチナの武装集団に家族とともに殺害された。カハネの著書『彼らは放逐されねばならない(They Must Go)』は、カハネの支持者たちからは「最高傑作」とされ、他方でカハネに反感をもつ人々からはヒトラーの『わが闘争』になぞらえられ、批判されることもある。カハネに影響されるイスラエル極右の運動は暴力的、人種主義的なもので、ユダヤ人が最も嫌っているナチス的な性格をもっていった。1994年にはカハネのイデオロギー影響された医師のバールーフ・ゴールドシュテインが西岸ヘブロンの「マクペラの洞窟」で銃を乱射してパレスチナ29人を殺害したこともある。


 イスラエルの極右勢力を支持するのはイスラエルの周縁の、社会・経済インフラが整備されていない貧しい地域に住む人々が多く、そういう意味でも彼らよりも下の生活状態を余儀なくされるイスラエル国内のアラブ人や占領地のアラブ人たちの存在は、彼らにある種の優越感を与えることになっている。
 また、イスラエルの若者たちに右翼が多いのは、2000年から2005年にかけての第二次インティファーダ(蜂起)でアラブ人たちとの間で緊張した生活の中で成長し、右翼の支持者が多い超正統派(ハレーディー)は出生率が高いということもある。


 イスラエルで極右勢力が伸長し、パレスチナ人の人権が侵害される時だからこそ国連は彼らの人権を擁護することを考え、またイスラエルの後ろ盾であるアメリカも公平な姿勢で、イスラエル極右の過度な行動を抑制する措置を講ずるべきだろう。エルサレム・ハラム・アッシャリーフというイスラムの聖地の安全が脅かされている時だからこそ、アメリカには介入してイスラエル極右の暴力を停止させるような調停が求められている。イスラエルの極右勢力のイスラムの聖地を冒涜するような行為は世界的規模な暴力にも発展する可能性があると言っても過言ではなく、アメリカやイスラエルはそれなりの危機感をもって対処すべきだろう。


アイキャッチ画像はパレスチナ人の女性を蹴り上げるイスラエルの極右の若者
エルサレム旧市街で。2022年5月29日。
https://www.middleeasteye.net/news/israel-palestine-jerusalem-ultra-nationalists-assault-flag-march?fbclid=IwAR1v5U1FNRjnlSFXUWQhB9-L-rRAEf8a9ywfkNhWJEpdqp8tUrVkpgikc

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宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

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