カシミールとパレスチナ -不義に抵抗し、弱者を助ける「エルトゥールル」

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Translation / 翻訳

「エルトゥールル」と言えば、日本では和歌山県紀州沖で1890年に座礁・沈没したオスマン帝国の軍艦エルトゥールル号を思い出すだろう。エルトゥールル号は串本町大島樫野崎沖を航海していたが、台風に遭遇して、岩礁に激突して、オスマン少将以下、587人が死亡、生存者はわずかに69人だった。

「復活:エルトゥールル」
https://tribune.com.pk/story/2223884/dirilis-ertugrul-fans-aspirational-history-quality-television?fbclid=IwAR0Xenm5JXMUfEa7qxbBlJzOxjTczgvmQjy6G1DES3z_07GCyyX-mYXjz_8


 この遭難に対して当時の大島島民は生存者の救助、介護、また殉難者の遺体捜索、引き上げを行い、日本全国からも多くの義捐金や物資が事故の生存者に対して送られた。現在でも和歌山県串本町では、エルトゥールル号の犠牲者たちを供養する行事が5年ごとに行われている。


 「トルコ・ラジオ・テレビ協会(TRT)が制作したドラマ「復活:エルトゥールル」は、英語やウルドゥー語、アラビア語などに訳され、特に中東イスラム世界では主人公エルトゥールルの勇猛さや高潔な生き方が共感を生むようになり、熱狂的人気を集めている。パキスタンのイムラン・カーン首相はこのドラマがイスラムの精神文化や徳、歴史を伝えていると、国民に視聴を推奨するようになった。「エルトゥールル」とはオスマン帝国を創始したオスマン1世の父親でトルコ人首長エルトゥールル(1198~1281年)のことである。


 このドラマが特に人気があるのはカシミールやパレスチナで、いずれも自治権の剥奪や植民地主義支配など理不尽な扱いを受けていて、これらの地域では子どもに「エルトゥールル」と名づける親も現れるようになった。


 カシミールは2019年8月にインドの極右ナショナリストのモディ政権によって自治権を剥奪され、カシミールの政治家、ジャーナリストの逮捕が相次ぎ、自治権が剥奪されてから1年の間に7000人以上が逮捕された。コロナ禍以前からロックダウンが行われ、商店、学校が閉鎖され、さらにインターネットが遮断された。カシミールにはフラッシュドライブなどで「復活:エルトゥールル」がもち込まれ、視聴されている。

カシミールはインドの国家テロの犠牲
https://www.sandiegouniontribune.com/news/nation-world/sns-bc-as–pakistan-kashmir-20190807-story.html?fbclid=IwAR3rBVxqCN-BVrEBkWpdA0M4QbEQRCPYa0Gv2QYymM8gkBhOC98Ej7vNJBk


 カシミールの人々は、アルジェリアの独立戦争や、北アイルランドやスコットランドの独立運動などによってインド支配からの解放への刺激を与えられてきたが、「復活:エルトゥールル」はインド支配の「不義」に対して勇気や励みを与えることになっていると、現地の活動家たちは話している。
 ドラマのエルトゥールルは、敵を倒し、平和や安寧、法や正義、また支配する地域で同胞意識をもたらす人物として描かれているが、それがあたかも預言者ムハンマドがイスラム世界を拡大していった様子と重なるように思われている。


 ドラマは、イスラムの聖典『コーラン(クルアーン)』に繰り返し触れながら、勇気や威厳が強調され、ムスリムとしての義務である弱者への慈悲、非ムスリムへの正当な扱いも表現される。エルトゥールルがムスリムを統一し、十字軍やモンゴルと戦い、またムスリムによる不正義な政治にも触れる。ムスリムの連帯こそが敵に対抗する手段として描かれている。

インド・カシミール地方の息を飲む美しい景色と生活
http://buzzzzzer.com/6061


 こうしたドラマがムスリムたちをひき付けるのはドラマのテーマや展開が少なからぬムスリムたちが反発したり、憤ったりする現代のイスラム世界の実情を映し出しているからに他ならない。イスラム世界でもアメリカのトランプ大統領に協調し、パレスチナ人を抑圧するイスラエルと国交を樹立する国々も現れた。ドラマは、現在イスラム世界を取り巻く不正義をあぶり出し、それとの闘いにムスリムたちを呼びかけているようだが、カシミールの民族的切望を抑圧するモディ政権との友好、同盟関係をことあるごとに強調する日本はカシミール問題に共感するムスリムからはどのように思われていることだろう?
アイキャッチ画像はエスラ・ビルギチはトルコの女優。彼女は、2014年から2018年までの歴史的な冒険テレビシリーズ「復活:エルトゥールル」でHalime Hatunの役割を描いたことで最もよく知られている。
https://www.aksam.com.tr/…/ramonun…/haber-1074576

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