映画「ハリー・ポッター」の出演女優のエマ・ワトソンはインスタグラムに、「solitary is a verb」と書き込み、それにパレスチナ人支持の画像を重ね合わせ、パレスチナ人への共感の意思を明らかにした。あっという間に100万以上の「Like」がつき、多くの感謝のコメントが述べられた。エマ・ワトソンの書き込みにはイスラエルによるガザ封鎖、攻撃、占領地での入植地拡大、政治犯の逮捕・拘束などの人権侵害や国際法違反に対する抗議の意図が込められていたことは間違いない。これに対してイスラエルの国連大使は即座に「反セム(ユダヤ)主義」と批判した。

「反セム主義」という言葉はイスラエルを非難すると、即座に必ず返ってくる言葉で、ユダヤ人迫害を行ったナチス・ドイツの政策を象徴する言葉として使われている。
哲学者のハンナ・アーレントは、イスラエル初代首相のデヴィッド・ベングリオンやイスラエルの多くの人々が「反セム主義」でユダヤ人がガス室や人間石鹸に至ったと強調しているせいで、「反セム主義」は永久ではないにしても、当分の間、まったく信用を得られなくなったと述べている。「反セム主義」という言葉は19世紀のナショナリズムに基づいて成立した国民国家の求心力を高めるために、ユダヤ人という「異分子」が意図的に排除される政策をとられる中でナチスなどによって頻繁に用いられた。イスラエルはヨーロッパのナショナリズムと同様に、反セム主義という言葉を使うことによって国内の異分子(=アラブ人)を排除しようとしている。イスラエルはユダヤ人と非ユダヤ人の通婚を禁止するなど、ナチスと同様のことを行っている。

パレスチナ人の人権擁護を訴えることが「反セム主義」でないことは言うまでもない。アメリカのユダヤ人哲学者のジュディス・バトラーは、イスラエルの国家的暴力と人種差別を批判し、エマ・ワトソンと同様に「反セム主義」というレッテルを一部のイスラエル人などから貼られているが、彼女がイスラエルを批判するのは、ユダヤ人としての社会正義の価値観からだと述べている。彼女は、イスラエルの占領と植民地支配の終焉させる前提として、イスラエル・パレスチナの同等な権利、パレスチナ人の民族自決権を実現しなければならないと訴え、イスラエルとパレスチナが平等や正義を達成するには、パレスチナ人の土地所有の権利を確立し、土地の再分配を実行しなければならないと述べている。
2020年7月に言語学者のノーム・チョムスキーは、イスラエルを批判することや、パレスチナ人を支援することが「反セム主義」という汚名を着せられることになり、この「武器」がイスラエルのガザ攻撃を激しく批判した前イギリス労働党党首のジェレミー・コービン氏に対する下品で、欺瞞に満ちた「反セム主義」の誹謗中傷となったと述べている。

アーレント、バトラー、チョムスキーは皆ユダヤ人だが、オーストリア生まれのユダヤ人哲学者のマーティン・ブーバー(1878~1965年)は、ドイツの「反セム主義」によってフランクフルト大学の教授の任を解かれ、エルサレムのヘブライ大学に移っていったが、ユダヤとアラブの対話こそが肝要であり、パレスチナに創設する国家はユダヤ人とアラブ人が主権と統治を共有すべきことを訴えた。現在、パレスチナ人との対話を拒絶し、パレスチナ人を排除するイスラエルは、本来ユダヤ人がもつ「人間らしさ」を忘れ、ユダヤ人のイメージをゆがめている点で、「反セム主義」と共通項をもっている。
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