学徒出陣から80年、求められる記憶の継承と「バスに乗り遅れるな」

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10月21日は1943年(昭和18年)に出陣学徒壮行会が行われた日で、今年は80年目になる。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ドイツも、フランスもスウェーデンも防衛費を増やしている、その中で日本はどうするか、防衛費増額を支持する世論が多い、与党の自公は防衛力の抜本的な強化に向けての協議を開始したと伝えていた。まるで日独伊三国同盟の「バスに乗り遅れるな」を彷彿させるような報道ぶりだった。

 日独伊三国同盟は1940年9月に締結されたのだからドイツがその年の6月にパリに進駐するなどドイツに軍事的に破竹の勢いの時だった。「バスに乗り遅れるな」は陸軍の主張を追認するメディア側の表現だった。日独伊三国同盟の前の日独防共協定を報じる「東京日日」の見出しは「日独防共協定成立す」「世界平和脅威の抑へ  画期的の我外交協定」「特定国を目標とせず、背後に特殊協定なし」などまるで米国との集団的自衛権を成立させた時の政府の表現のようだった。

 ナチス・ドイツの敗北から3日後の5月11日に22歳の若さで特攻に出撃した上原良司少尉もまた学徒兵だったが、日独伊三国同盟の悲惨な結末に触れながら下のような遺書を残した。これも現在の日本人に歴史の教訓を与えるものだと思う。

「権力主義者は己の勝利を願って、日本を永久に救われぬ道に突き進ませた。彼らは真に日本を愛せざるのみならず、利己に走って偉大なる国民に、その欲せざる方向を強いて選ばしめ、アメリカの処置をその意に訴えるが如き言辞を以て、無知なる大衆をだまし、敢えて戦争によって自己の地位をますます固くせんとした。

ファシズムのイタリアは如何、ナチズムのドイツもまた、既に敗れ、今や権力主義国家は、土台石の壊れた建造物のごとく、次から次へと滅亡しつつあります。ただ、願わくば愛する日本を偉大ならしめられん事を、国民の方々にお願いするのみです。」

 日本が1000兆円以上の財政赤字を抱える中で、防衛費増額は上原少尉が表現する「日本を永久に救われぬ道に突き進ませる」ようなものではないか。一部の与党政治家たちが言うように、防衛費をGDPの2%という倍増ならば、日本は世界第3位の軍事大国になり、これは世界に平和の理念を訴えた日本国憲法の精神にも反する。

 1964年の東京オリンピックの開会式を観た杉本苑子は「明日への祈念」(共同通信)と題する文章の中で、「20年前のやはり10月、同じ競技場に私はいた。女子学生の一人であった。出征していく学徒兵たちを秋雨のグランドに立って見送ったのである。天皇、皇后がご臨席になったロイヤルボックスのあたりには東条英機首相が立って『敵米英を撃滅せよ』と学徒兵たちを激励した。暗鬱な雨空がその上を覆い、足元は一面のぬかるみであった。私たちは泣きながら往く人びとの行進に添って走った。私たちにあるのは今日を今日の美しさのままなんとしても明日へつなげなければならないとする祈りだけだ。」と述べ、戦中の日本と対比してオリンピックの平和精神が将来の日本や世界を覆うことを願った。(NHK「映像の世紀プレミアム」東京 夢と幻想の1964年)

 今の日本人の責務として求められるのは、学徒兵たちが出陣した時のような暗鬱な光景を繰り返すのではなく、今から60年ほど前にオリンピック開会式で杉村苑子が見たような平和の情景を明日につないでいくことではないか。防衛費増額を議論する前に日本政府がすべきは外交と対話によって日本周辺をより平和な環境にすることだろう。今の与党には杉村苑子のような想いが見てとれないし、また意識している様子もない。防衛費増額を安易に支持する日本人が過半数いることは私には理解できないが、それがいかに不合理なことであるかを心ある日本人とともに訴えていきたい。学徒兵の戦没者たちもきっと同じ思いでいることだろう。

学徒出陣
https://www.nhk.or.jp/archives/sensou/special/warmuseum/06/?fbclid=IwAR1w4L3_aTSql1v1KT1vdh1uxyBZj69g51DxUy2I2kbo9H5XTRLWSFqIPxU

スタンドから見送った女子学生たち
https://www.nhk.or.jp/archives/sensou/special/warmuseum/06/?fbclid=IwAR1w4L3_aTSql1v1KT1vdh1uxyBZj69g51DxUy2I2kbo9H5XTRLWSFqIPxU

これほど出席者が少ないとは・・・。
「学徒出陣」壮行会から79年で追悼式 元学徒の参列なく 東京
2022年10月18日 16時57分

「沈黙は従属だ」
https://hisakobaab.exblog.jp/237590148/

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