パレスチナ系アメリカ人の文学者エドワード・サイードは、帝国主義(=アメリカ)の歴史観について次のように語っている。
「帝国主義は、歴史を書き換え、過去を再編し、それ自身の歴史を提示する。帝国主義の恐るべきことは、歴史を醜く、不具なものにし、最終的にはアメリカの都合のよい秩序をつくるために歴史を抹殺してしまうのである。」
アメリカのトランプ政権のパレスチナ政策はまさにサイードが指摘する通り、歴史を抹殺するかのように、エルサレムをイスラエル単独の首都とし、また1967年の第三次中東戦争によってイスラエルがシリアから占領するようになったゴラン高原にイスラエルの主権を認めた。これらの政策も、パレスチナに平和をもたらすこととは遠くかけ離れたアメリカの大統領トランプ氏の再選を図るという個人的利益を追求するものだった。

―サイード
https://www.quoteslyfe.com/quote/Humanism-is-the-only-I-would-go-70130?fbclid=IwAR3-k21IQUYQ4fmZhPtyHT19dEh-z6TdgZdXcG-UMXJyZ2MnKfR4_UY76lY
トランプ元大統領など共和党の支持基盤であるキリスト教福音派は、パレスチナにユダヤ人が集まれば集まるほど、キリストの復活が早まり、人々に幸福をもたらす一千年王国を建設することを考えている。同様にトランプ元大統領に心酔するオルタナ右翼はアラブ人に人種的偏見をもち、イスラエルを支持している。
サイードは、1993年のオスロ合意にも「パレスチナの降伏」「パレスチナのベルサイユ」と反対した。そこにはエルサレムの最終的地位の問題、難民の帰還、パレスチナ国家の問題に具体的に触れることがなく、パレスチナ人は自治を認められたにすぎない。オスロ合意もサイードにとってはパレスチナ人たちの歴史を「抹殺」するものだった。その結果、パレスチナではハマスなど急進的な傾向が生まれ、イスラエルやアメリカの利益と激しく衝突するようになる。アメリカ主導の和平交渉はイスラエルに安全保障を与えるものにすぎないとサイードは考えた。

1987年
サイードは、第一次インティファーダは、最も印象に残る、規律がある反植民地主義の運動だったと述べている。
http://en.fatehnews.org/2019/12/on-the-memory-of-the-first-intifada-1987/?fbclid=IwAR1G7EGjzET9BXrGLCVL3ZDPKfMNYt8R2olhuIi84lbgEXlqDcawg0ZrqTU
歴史を抹殺することが、イランなどの中東イスラム世界の反米感情の背景になっているが、アメリカではイランで「アメリカに死を!」というスローガンが唱えられる理由を知っている人は少ないことだろう。アメリカはチリのアジェンデ政権打倒のように、イランで1953年8月19日にCIAの策動によって、クーデターで民主的に選出されたモサッデグ政権を崩壊させた。またCIAは、国王の弾圧装置である秘密警察SAVAKの創設に協力し、SAVAKに反王政派の人々の情報を提供するなど弾圧に加担した。アメリカとの強固な同盟関係を強調した国王時代のイランには米軍関係者が多数駐在して、アメリカの「軽量級」のポップ文化がもたらされると、宗教心の強い階層は、イスラムの伝統価値観とは相いれないと反発した。
大統領などアメリカの指導層が過去のイランへの介入政策に言及することなく、ましてやモサッデグ政権の打倒などについて謝罪することもない。アメリカ・イラン関係の歴史は、アメリカでは抹殺されている感があるが、歴史を知らないアメリカ人には「アメリカに死を!」を唱えるイランは奇異な国に映るに違いない。

この行為でウィーンでのフロイト協会の講演をキャンセルされた。サイードはフロイトはユダヤ人だったからウィーンから追放され、私はパレスチナ人だからウィーンから追放されたと述べた。
https://gramho.com/location/gaza-province/574618126
トランプ元大統領は、2015年のイラン核合意の歴史すら封殺して、イラン核合意から離脱してイランに制裁を強化し、その結果イランでは反米を唱える保守強硬派のライシ大統領の誕生となった。歴史に無頓着、あるいは歴史を都合よく改ざんするアメリカは自分で自分の首を絞めているようだ。
アイキャッチ画像はエドワード・サイード
https://quotesgram.com/edward-said-quotes/
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