ヴィクトル・ユーゴー、ボブ・ディランとイスラム神秘主義、公正・平等の普及

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Translation / 翻訳

 フランス・ロマン主義の作家・詩人のヴィクトル・ユーゴー(1802~1885年)は、イランの教訓文学と抒情詩人のサーディー(1210頃~92年頃)に強く傾倒していた。彼が26歳の時に書いた『東方詩集』の最後の詩「十一月」に次のようなサーディーの詩が紹介されている。

ミュージカル 「レ・ミゼラブル」より https://www.broadway.org/zh/multimedia/gallery/643/les-mis%C3%A9rables

私は彼に言った、庭のばらは知らるる通りわずかな命、
ばらの季節は、まことにすみやかに去ってしまったのだと。
                      -サーディー
                         
 このサーディーの詩は、イラン詩の中にしばしば取り上げられる無常観を表現しているが、ユーゴーは若い時から社会正義の問題を取り上げ、抑圧された人々に対する同情を示し、また死刑制度に反対した。ユーゴーの代表作『レ・ミゼラブル』には社会の矛盾や圧政、制度や慣習の中で貧しさや飢えに苦しむ人々に対する同情、また民衆を苦しめる制度や慣習を打破しようと戦う姿勢も見てとることができる。

強き腕と指先の力もて
か弱き貧者の掌をくじくは罪なり
人々に正義を施せ
汝もし正義を与えざればむくい受ける日ありなん
―サーディー『薔薇園』(沢英三訳、岩波文庫)

 ユーゴーの作品『諸世紀の伝説』は人類の歴史を創世記から19世紀、さらに未来の審判の日に至るまで、理想を目指して向上的に生きる人間の姿を描いたものだが、これも12世紀末にイランの神秘主義詩人ファリードゥッディーン・アッタールが書いた「鳥の言葉」という叙事詩をモデルにしている。
 世界中の鳥たちは、誰が彼らの王となるかを決めるために集まる。鳥たちは、伝説的な鳥「スィーモルグ」を探し出したものを王とすることにした。数千羽の鳥たちは仲間が続々と脱落する苦難の旅を続けるが、最後に残った30羽がスィーモルグの住む山に到達する。その時、互いを見ると、皆それぞれにスィーモルグが宿る同じ鳥であることに気づく。つまり伝説の鳥である王は実は自分たちの中にいたというペルシアの「青い鳥」物語であり、神は自分の中に在るという人間と神の合一を目指すイスラム神秘主義の思想をも表わす。
 ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランもイスラム神秘主義の影響を受け、雑誌『ローリング・ストーン』のインタビューの中で、「私の音楽はイスラム神秘主義から生まれたものだ」と語っている。イスラム神秘主義は神への愛を重視し、愛によって人間を解放し、救済しようとする。
https://nam12.safelinks.protection.outlook.com/?url=https%3A%2F%2Fwww.rollingstone.com%2Fmusic%2Fmusic-features%2Fbob-dylan-the-rolling-stone-interview-58625%2F&data=05%7C01%7C%7C211727dfa1134c83eac508da61addda5%7C84df9e7fe9f640afb435aaaaaaaaaaaa%7C1%7C0%7C637929696633983543%7CUnknown%7CTWFpbGZsb3d8eyJWIjoiMC4wLjAwMDAiLCJQIjoiV2luMzIiLCJBTiI6Ik1haWwiLCJXVCI6Mn0%3D%7C3000%7C%7C%7C&sdata=XKRBUiSBj3loh6mNaHt%2F%2BzC%2Bo%2FJUdabK0zyCRy3yUgE%3D&reserved=0

ボブ・ディラン(左)、ジョン・バエズ、PPMのノエル・ポール・ストゥーキー
https://www.reddit.com/r/OldSchoolCoolMusic/comments/v8kruy/joan_baez_doing_what_she_did_best_alongside_some/


「Absolutely Sweet Marie / 絶対的に愛しいマリー」和訳/歌詞 – ボブ・ディラン (Bob Dylan)には、ディランがイラン詩の世界に精通していたことが表れている。その歌詞には、

「Well, I got the fever down in my pockets The Persian drunkard, he follows me
それでおれのポケットには熱がある
ペルシア人の酔っ払い
やつが付きまとう」

 とあり、この「ペルシア人の酔っ払い」はイランの詩人オマル・ハイヤーム(1048~1131年)のことを言っているが、ディランがハイヤームの無常観に影響されたことは彼の楽曲「風に吹かれて」からもうかがえる。

この永遠の旅路を人はただ歩み去るばかり、
帰って来て謎をあかしてくれる人はない。
気をつけてこのはたごやに忘れものをするな、
出て行ったが最後二度と再び帰っては来れない。
(オマル・ハイヤーム/小川亮作訳『ルバイヤート』)

 ディランの社会正義の考えは、ユダヤ教の聖典である旧約聖書や、活動していたニューヨークの左派の活動家たちに影響されたものだ。彼は、大企業が支配する経済、不平等で、軍国主義的、人種主義的な考えが横行するアメリカに反発した。ユーゴーもディランもイラン詩の無常観の世界に共感しながら、またイランなどイスラム世界で伝統的に強調される公正や不平等の是正を訴えた。

ボブ・ディラン「Blowin’ in the Wind(風に吹かれて)」

How many roads must a man walk down
(男はどれほどの道筋を歩いていかなければならないのか)

Before you call him a man?
(人として認めてもらうまでに)

How many seas must a white dove sail
(白い鳩はいくつの海を渡らなければいけないのか)

Before she sleeps in the sand?
(砂浜で眠るまでに)

Yes, and how many times must the cannonballs fly
(砲弾はどれほど飛ばし合わなくてはいけないのか)

Before they’re forever banned?
(永遠になくなるまでに)

The answer, my friend, is blowing in the wind
(友よ、その答えは風に吹かれているのだ)

The answer is blowing in the wind
(そう、答えは風に吹かれている)

Yes, and how many years can a mountain exist
(山はどれほどの時を超えて存在し続けられるのだろうか)

Before it is washed to the sea?
(海に浸食されるまでに)

Yes, and how many years can some people exist
(ある人々はどれほどの時間を有するのだろうか)

Before they’re allowed to be free?
(自由を許されるまでに)

Yes, and how many times can a man turn his head ※01
(人はあと何回顔を背け)

And pretend that he just doesn’t see?
(見なかったフリをするのだろうか)

The answer, my friend, is blowing in the wind
(友よ、その答えは風に吹かれているのだ)

The answer is blowing in the wind
(そう、答えは風に吹かれている)

Yes, and how many times must a man look up
(男はあと何回見上げなければならないのか)

Before he can see the sky?
(空を見ることができるようになるまで)

Yes, and how many ears must one man have
(人はいくつの耳を持たなければいけないのだろうか)

Before he can hear people cry?
(人が泣いているのを聞くまでに)

Yes, and how many deaths will it take ‘til he knows
(死をあとどれ程もたらされるのだろうか)

That too many people have died?
(多くの人が亡くなってきたと気づくまでに)

The answer, my friend, is blowing in the wind
(友よ、その答えは風に吹かれているのだ)

The answer is blowing in the wind
(そう、答えは風に吹かれている)

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