一昨日は関東一円で降雪があったが、中村哲医師は『ほんとうのアフガニスタン』(光文社、2002年)の中で「お金がなくても生きていけるけれども、雪がなくては生きていけない」というアフガニスタンのことわざを紹介している。中村医師が井戸を掘ったり、用水路を築いたりするなどの事業で最も訴えたかったのは、アフガニスタンにも影響を及ぼす地球の気候変動の問題であったに違いない。
同書の中で「その貯水槽である巨大なヒンズークシュの山の雪が、だんだん消えつつあるのです。おそらく戦争が起きなくてもアフガニスタンそのものが何年かすると、砂漠化して、一千万人以上が居住空間を物理的に失うのではないとの予測もされています。しかし、それこそ人類こぞって協力すべき課題に対して、世界のマスコミはいまだ危機感を抱いているとはいえません。」と述べ、人類共通の課題として、気候変動による乾燥化や砂漠化にもっと注意を向けてほしいと中村医師は語っていた。アフガニスタンの干ばつはもしかすると、中村医師が言うように一千万人以上が深刻な影響をすでに被っているのかもしれない。「ワールド・ビジョン」は近隣諸国に逃れたアフガニスタン難民の数を570万人と見積もっている。

ヒンドゥークシュ山系
2010年2月
この中村医師の言葉に接して富士山の降雪も年々少なくなっているように思えることに気づいた。子どもの頃の記憶では富士山の積雪は今よりももっと早い時期にあったが、最近では秋深くなっても富士山はかなり上のほうまで山肌が見えると思うのは私だけだろうか。富士山麓にある山梨県の忍野八海や静岡県柿田川湧水の透き通ってあふれ出ていた水は今も健在だろうかとも思ってしまう。

忍野八海で。学生たちと。
中村医師が最も注意を向けていたのは、干ばつ被害から離村した難民たちだった。彼らを救うためにまず行ったのが井戸掘りだった。赤痢、コレラ、腸チフスという腸管感染症の治療のためには水が必要だが、水の欠乏のために、相当な数の子どもたちが亡くなった。中村医師は一つの井戸で2000人の村民の命が助かると考えていたが、井戸を掘りあてた時の感激を次のように記している。
「堀った井戸から水が出ると、これは本当にうれしい。みんなで喜ぶ。今まで泥水をすすっていた村に数か所井戸ができただけで、これで何百家族も助かる。一家族、向こうはだいたい十人から百人ぐらいいますから、この一本の井戸は、これはまさに数千人の命綱なのです。」(『ほんとうのアフガニスタン』139頁)

アフガン人たちが抱える問題の改善や解決を途中で放棄することがない中村医師に、一人の長老は「私たちは十年以上もあなたたち日本人の活動を見てきました。だから私たちは知っています。 あなたたちは絶対に逃げない。色々な事があったけど今までずっとダラエ・ヌールで活動している。私たちは あなたたち日本人だけは信じる。」(『ほんとうのアフガニスタン』)と語っていたが、気候変動は私たち日本人が投げ出すことができない問題であり、われわれ日本人も中村医師と問題意識の共有を図らなければならない。
アイキャッチ画像は「井上ひさし氏が語っていた『何が中村哲医師をアフガンニスタンで突き動かしたのか』」より
https://honsuki.jp/pickup/30373.html
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