中村哲医師は気候変動と暴力の関係についてアフガニスタンでの観察から次のように述べていた。
「温暖化と干ばつと戦乱の関係は、もはや推論ではない。治安悪化の著しい地帯は、完全に干ばつ地図と一致する。その日の食にも窮した人々が、犯罪に手を染め、兵員ともなる。そうしないと家族が飢えるからだ。」
(【アフガンの地で 中村哲医師からの報告】異常気象と平和の代償、西日本新聞)

中村哲
https://websekai.iwanami.co.jp/posts/2916
地球の気候変動が戦争や暴力を助長するようになっている。気候変動の影響が著しく感じ取られる地域では、貧困や経済的不平等などで政府に対する不満や不信が増幅されるようになっている。生活手段がなければ人々の希望は薄れることになるが、人々の安全や収入は政府ではなく、武装集団によって与えられることになっている。
他方で、戦争が環境を破壊するというのは現在のウクライナ戦争やイスラエルのガザ空爆などを見れば明白で、空爆などの爆発によって生じる黒煙によって環境に大きなダメージを与える様子が容易にうかがえる。

2018年6月21日、用水路沿いの柳の挿し木にバケツで水やりをする作業員たち。柳の根が護岸を強くする 「西日本新聞」より
気候変動が暴力や戦争をもたらすことはたとえば、アフリカ大陸中央部のチャド湖周辺ではテロ集団のボコハラムが、生活手段を失われ、食料や水などの生きるための資源を得ることができなくなった人々から新たなメンバーを募ることにも見られる。またマリでも武装集団が遊牧民と農耕民の対立を開拓して、気候変動によって牧草地が減った遊牧民から新しいメンバーを獲得するようになった。さらに、イラクやシリアではISが水不足につけ込み、水インフラを支配して地域社会を支配した。
紛争国では、十分な食事を提供できるのは特に武装集団で、アンジェリーナ・ジョリーが主演した映画「すべては愛のために(原題: Beyond Borders)」(2003年)では、主人公のアメリカ人女性が、干ばつが深刻で、紛争国であるエチオピアに自費で買い集めた支援物資の食料をもってトラックで支援に赴くが、酷暑の砂漠の中を苦労して運んだ食料も結局銃をもった武装集団に奪われてしまう。紛争国では武器をもった人たちが力ずくで食料を確保するために、その食料を当てにして武装集団に入る若者たちが後を絶たない。エチオピアは1990年代まで干ばつが頻発して農業生産が著しく落ち込んだ。今またエチオピアは未曾有の干ばつで、年々雨量が減少し、生活の糧が刻々と奪われる状態になっている。

https://ja.wfp.org/stories/ethiopia-wfp-responds-worst-drought-lifetime-intensifies-hunger?fbclid=IwAR35-c-GWNWNt2wFxD7MVEWd4qtOFppP-2VfgnpdIacQN_Pg1zrHnB2JE_I
ソマリアでは木炭生産が武装集団アルシャバーブの収入源となっている。ソマリア産の木炭の80%以上がペルシア湾岸諸国やその近隣に輸出されている。それが大規模で、無秩序な森林伐採と環境破壊を招き、アルシャバーブの活動を継続させる背景になっている。気候変動は、政治・社会的不安定、紛争、テロリズムを増幅させる要因になっている。
ソマリアでは1970年代は7年おきに経験する干ばつだったが、1980年代は5年おきに、また1990年代は2、3年おきと間隔が縮まった。今年は「過去10年で最悪の干ばつ危機」と形容されるほど深刻な干ばつに見舞われて、2月から5月までに460万人が危機的レベルの食料不安に陥ると考えられた。米軍は映画「ブラックホーク・ダウン」(2001年)に描かれたように、1993年にソマリアに「人道的介入」を行ったが、その背景にも干ばつなど気候変動による政情不安があった。
https://ourworld.unu.edu/jp/famine-we-could-avoid
エジプトで2022年に開催されたCOP27では自然災害による「損失と損害(Loss & Damage)」が議論の中心に置かれ、議長国のエジプトも議論の進展に意欲を見せた。
日本ではアメリカの中間選挙のニュースは大きく扱われていたが、エジプトで開かれたCOP27に関する報道はテレビ・ニュースに接する限りきわめて少なかった。ということは日本人の気候変動や環境問題に関する関心が低いということだ。地球環境問題は待ったなしという状態にあることを日本人はもっと意識し、世界の安定に思いを馳せたほうがよいに決まっている。日本人は中村医師の切実な警告にもっと耳を傾けてほしい。

https://specials.nishinippon.co.jp/tetsu…/contribution/06/
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