チャールズⅢ世とイスラム世界 ―新国王はイラク戦争に反対し、パレスチナに同情した

日本語記事
スポンサーリンク
Translation / 翻訳

 イギリスの新国王チャールズⅢ世から日本人が即座に連想するのはダイアナ妃との結婚、カミラ夫人との不倫とダイアナ妃との離婚なのかもしれない。あまり肯定的なイメージはないかもしれないが、しかしイギリスの王室史上最もイスラムを知り、イスラムに親近感をもっていると見られ、中東イスラム世界ではチャールズⅢ世の即位を歓迎するムードがある。(Peter Oborne , Imran Mulla,”Charles III: How the new king became the most pro-Islam monarch in British history” Middle East Eye,12 September 2022)


 チャールズⅢ世は、1993年からオックスフォード大学イスラム研究センターの活動を支援し、様々な機会でイスラムについてスピーチをしてきた。イスラムが世界史の中で果たしてきた役割を強調し、キリスト教、ユダヤ教、イスラムには共通性があることを訴えている。1993年のオックスフォード大学イスラム研究センターのスピーチでは、8世紀から15世紀に至るイスラム統治時代のスペインに触れ、イスラム・スペインがギリシアやローマ文明の知的財産を蒐集、保存し、科学、天文学、数学、法学、医学、薬学、農業、建築、神学、音楽などの分野で貢献していたことを強調している。また、アヴィケンナ(イブン・スィーナー、980~1037年)やラゼス(ラーズィ、865~925年)の医学研究はその後数世紀にわたってヨーロッパが恩恵を受けていたと述べた。

イタリア・アマルフィで。南イタリアの人々はアラブ人のような人が少なくないように思える
 

 これらのことは過激派のテロなどで反イスラム感情が高まっていた2006年にエジプト・カイロのアル・アズハルでのスピーチでもあらためて強調され、ヨーロッパ世界がいかにイスラムの学者たちから恩恵を受けていたか思い起こす必要があると述べ、ヨーロッパの暗黒時代、イスラムの学者たちはヨーロッパの古典の学問的財産を継承する努力を行っていたとも語り、欧米世界の「イスラムは危険」という発想に一石を投じてもいる。

チャールズⅢ世のようなイスラム観を紹介しています


 アフガニスタンのタリバンが女子教育再開を延期しているように、イスラムでは女性の人権が侵害されていると、特に欧米世界では見られがちだが、チャールズⅢ世はイスラムでは1400年前、つまりその生誕以来、女性に財産権や相続権を認めたことも強調したことがあった。


 2020年1月にパレスチナのヨルダン川西岸を訪問すると、イスラエルの占領によってパレスチナ人が受ける苦難、艱難に心が張り裂けるほどの悲しみを覚えると語り、ヨルダン川西岸のベツレヘムでは、パレスチナ人たちに自由、公正、平等が訪れ、繁栄することを心から願うとも語っている。


 イラク戦争についても米国のブッシュ大統領に従うブレア首相のことを「プードル」と形容したことが伝えられている。チャールズⅢ世が皇太子時代の伝記を書いたロバート・ジョブソン氏によれば、チャールズⅢ世がイラク戦争の時に国王であったならば、できる限りの反対の意思を表明しただろうと述べている。イギリス憲法では宣戦布告は国王の署名が必要とあり、チャールズⅢ世が母親のエリザベスⅡ世がイラク戦争に容易に同意したのとは真逆に、今後の戦争については苦言を呈するかもしれないという見方もある。

アマルフィの大聖堂。スペイン・コルドバの建築様式を思い起こさせる


 イギリスでは行政権のいくつかは理論上国王に帰属し、「国王大権」と呼ばれ、大権の行使は大臣たちの助言による場合だけで、大権は首相の助言によって行使されてきた。国王の大権には「宣戦布告と講和」、「軍の作戦指揮」も含まれているが、イラク戦争に反対の意をもっていたチャールズⅢ世はイラク戦争中、イギリス軍の装備が不十分であることも批判した。国王の大権は制限されているものの、国王の見解は様々な局面において圧力になることだろう。

パリ・ルーブル博物館のイスラム展示。2021年10月。


 イギリスは第一次世界大戦中のフサイン・マクマホン書簡、サイクス=ピコ協定、バルフォア宣言で、パレスチナ問題、クルド人問題、さらにはレバノン内戦などの中東混乱の要因をつくった。中東の民族・宗派問題は同じ帝国主義国であったフランスとの国境の画定に重大な原因がある。国王の政治への介入には制約があるものの、イギリスの中東政策の今後に肯定的な影響があることを願っている。

アイキャッチ画像はチャールズⅢ世、サウジアラビアのリヤドで。2014年2月

What are King Charles III’s views on the Middle East?
British royal family constitutionally obliged to stay out of political issues, but Charles is known for close Gulf ties.
日本語記事
miyataosamuをフォローする
Follow by E-mail / ブログをメールでフォロー

If you want to follow this blog, enter your e-mail address and click the Follow button.
メールアドレスを入力してフォローすることで、新着記事のお知らせを受取れるようになります。

スポンサーリンク
宮田律の中東イスラム世界と日本、国際社会

コメント

タイトルとURLをコピーしました