2017年8月に「写真家チェ・ゲバラが見た世界」という展示が東京で行われたことがある。
ゲバラが写真を撮り始めたのは1954年の中米グアテマラで、彼の関心の中心にあったのはインディヘナ(先住民)だった。当時のグアテマラは、ホセ・アレバロ(1904~1990年)大統領やアルベンス・グスマン(1913~1971年)大統領らによる政治の改革期で、米国のフランクリン・ルーズベルト大統領のニュー・ディール政策をモデルにしていた。しかし、その農地改革が米国の多国籍企業UFC(ユナイティド・フルーツ・カンパニー)に及ぶと、米国CIAはクーデターを主導して軍事政権を成立させた。米国アイゼンハワー政権はグアテマラのグスマン政権は親ソ連で、共産主義者に寛容だと考えていた。その後のCIAによる調査ではグアテマラがソ連と親密な関係であることを示す文書を見つけることがなかった。このあたりの経緯はイラク戦争の口実となった「大量破壊兵器」を彷彿させるが、また共産主義者を擁し、1952年に合法化されたグアテマラ労働党も議会上院58議席のうち4議席しかもっていなかった。

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グアテマラの軍事政権の成立でゲバラはメキシコに逃れて、そこでカストロ兄弟などキューバ革命を担う人々に出会うことになった。
ゲバラはメキシコではマヤ文明の遺跡を中心に写真を撮ったが、後に中東を訪れると、エジプトのピラミッドの写真も多く撮っている。ゲバラは古代史に関心があったようだが、その関心をもたらしたのはパブロ・ネルーダの作品『大いなる歌』であったとも見られている。
ボリビアで殺害された時、ゲバラのリュックサックにはネルーダの『大いなる歌』が入っていた。『大いなる歌』はネルーダが1943年秋にメキシコからグアテマラ、ペルーのマチュ・ピチュの遺跡を旅行した時に構想された。『大いなる歌』はアメリカ大陸の創成期、大自然や生物、マチュ・ピチュのような大遺跡を造るために使役された人々の苦しみ、スペインの植民者に抵抗した人々、解放者たちの英雄像などが壮大なスケールで描かれ、ネルーダへのノーベル文学賞授与も『大いなる歌』に対して行われたと見られている。

https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12298611830.html?fbclid=IwAR3X21jQYGeszy7R9Xw9csivuY8tOy02Oj5nfkC8LYAhJ1ORT72-4cMVrKo
ゲバラの米国の干渉政策、不正に対する憤り、搾取される者たちに対する同情や共感はネルーダの影響もあったのだろう。
7月25日、グアテマラのジャマティ大統領はウクライナの首都キーウでゼレンスキー大統領と会談して、ロシアの侵攻を非難しながら「世界各国は戦闘停止と平和回復に向けて団結しよう」と訴えた。そこにはウクライナ和平の調停者として米国など欧米諸国に期待を寄せる姿勢は見て取れなかった。グアテマラには米国の介入を受けたという歴史があり、軍事占領についてはロシアを激しく非難する一方で、イスラエルを一向に批判しない欧米の「二重基準」に対する不服の想いが込められていた。あたかも1955年にインドネシア・バンドンで反植民地主義、平和共存などを訴えた非同盟諸国の集まりを彷彿させるかのようだった。

ネルーダにはチリのアジェンデ政権が米国CIAによって打倒された4日後に書いた絶筆「腹黒い奴ら」という詩がある。そこにはゲバラやネルーダの時代から変わらぬラテンアメリカ諸国に対する米国の介入政策や独裁者たちに対する憤怒の想いが込められている。チリではアジェンデ政権崩壊後のピノチェト独裁政権の下で3万人の人々が弾圧によって亡くなったと国際的人権団体は主張している。
「腹黒い奴ら」
ニクソンと フレイ(*l)と ピノチェト(*2)ども
ポルダベリ(*3)と ガラスタソ(*4)と パンセル(*5)ども
今日 この一九七三年九月のなんという酷(むご)たらしさ
おお 貪欲なハイエナども
多くの血と火でかちとった旗をかじりとるネズミども
大農場でたらふく満腹している奴ら
極悪な略奪者ども
干回も身を売った腹黒い奴ら
ニューヨークの狼どもにけしかけられた裏切者ども
わが人民の汗と涙を絞りとり
わが人民の血で汚れた機械ども
アメリカのパンと空気を売りこむ売春屋ども
淫売宿のボスども ペテン師ども
人民を拷問にかけむちうち飢えさせる法律しかもたぬ死刑執行人ども!
(一九七三・九・一五)
*1 フレイ=元チリ大統領、 2 ピノチェト=チリ軍事評議会議長、 3 ポルダベリ=ウルグアイの独裁者、 4 ガラスタソ=ブラジルの独裁者、 5 バンセル=ボリビアの独裁者 アイキャッチ画像はカメラが好きだったようです
1960年代
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