ビートルズが1966年に日本にやって来た時、6月29日に行われたヒルトン・ホテルでの記者会見で「名誉と財力を得て、つぎに求めているものは?」という質問に対し、「なによりもまして平和(ピース)がほしい」と答えた。実はビートルズのポール・マッカートニーはその直前の6月18日にイギリスの数学者で哲学者のバートランド・ラッセル(1872~1970年)に会って平和や反戦を説かれ、それを仲間に伝えていた。ラッセルの影響が日本の会見でのビートルズの発言になり、ビートルズの来日は平和への決意をもったものであったに違いない。その当時、ビートルズを迎えた日本人はそのような彼らの想いを知る由もなかっただろう。

ラッセルは、ベトナム戦争はアメリカの既得権益のためにだけ戦っている帝国主義戦争で、反対すべきだとマッカートニーに語っていた。偉大な哲学者からはそれだけ聞けば十分だった、またビートルズが平和を強く意識するようになったのはラッセルに会ってからだとポール・マッカートニーは2008年に回想している。
ラッセルは、「ラッセル・アインシュタイン宣言」(1955年7月9日)で核兵器による人類の危機を強調し、紛争解決のための平和的手段を見出すことを訴えたことでも有名だ。

https://thebulletin.org/virtual-tour/bertrand-russell-and-albert-einsteins-manifesto/?fbclid=IwAR1rzycEotKkhaNlG1oOPbJ6fbw4GsjrEKpfvgxG3J6PBCysZouC1T32QfY
ラッセルは「善き人生とは愛によって触発され、知識によって導かれるものだ(The good life is one inspired by love and guided by knowledge)」と説いたが、この言葉の影響はビートルズの「愛こそすべて」の一節、「“Nothing you can to, but you can learn how to be you in time it’s easy All you need love” 何もできなくたって、どうすれば君らしくなれるか、学ぶことはできる 簡単だろ 君が必要なものは愛」に見られる。
また、ラッセルの「愛国心とは、取るに足らない理由で、進んで人を殺したり、殺されたりすることである。Patriotism is the willingness to kill and be killed for trivial reasons.」や「戦争は、誰が正しいかを決めるのではない。誰が残るかを決めるのである。War does not determine who is right-only who is left.”」は、ビートルズの「レヴォリューション」の「“You say you want a revolution. Well, we all want to change the world. But when you talk about destruction, don’t you know that you can count me out”
革命が必要だと君は言う まぁ、そりゃあね みんな世界を変えたいと思ってるよ 革命は進化なんだと君は言う まぁ、そりゃあね みんな世界を変えたいと思ってるよ
だけど破壊してでもやろうと言うなら 僕は仲間に入れないで」となった。(訳はhttps://lyriclist.mrshll129.com/beatles-revolution/ より)の中にその影響が見られる。

https://www.thespec.com/news/hamilton-region/a-new-mecca-for-bertrand-russell-scholars/article_6799f7f3-d38b-5783-83ed-88cf7b685da6.html
ビートルズとラッセルの交流はラッセルが亡くなるまで続いたようだ。ラッセルの最後の書簡は1970年1月18日付のジョン・レノンとヨーコ・オノに宛てられたもので、その前の月にジョンとヨーコから贈られたクリスマス・ハンパー(お菓子や食材、ワインなどを詰めたカゴ)に対するお礼の内容だった。1969年にラッセルはジョンとヨーコにベトナムとビアフラでの戦争に反対することを促したが、それが1969年6月と9月に行われた彼らの「平和のためのベッドイン」ともなった。

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14384977.htm
作家の広田寛治氏によれば、1970年代しばらく日本でヨーコ・オノとともに暮らしたジョン・レノンは俳句や江戸時代の臨済宗の僧侶、白隠・仙厓の世界に傾倒したとも言われている。これらの俳句や禅の世界に接して平和と一人一人の心の中にあると確認したのかもしれない。それはまさにラッセルの平和主義にも通じるものだった。
アイキャッチ画像は
シェーをするジョン・レノン
https://www.musiclifeclub.com/news/20200702_01.html
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