「ビートルズの11の反戦歌」というページがある。

その中には「愛こそすべて/All You Need Is Love」「レボリューション」などと並んで1968年に発売されたアルバム「ザ・ビートルズ」の中に収録されている「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」が含まれている。歌の動画は
https://www.youtube.com/watch?v=bI8P6ZSHSvE にあり、和訳の一節は下の通りだ。
世界を見れば、変化している事に気付く
僕のギターが静かに涙を流している。
どんな過ちからも、僕達は学んでいくべきなんだ
僕のギターが静かに涙を流している
(和訳はhttps://lyriclist.mrshll129.com/beatles-while-my-guitar-gently-weeps/ より)
ビートルズのこの曲が発表された1968年は、ソ連軍がチェコスロバキアの民主化運動「プラハの春」を軍事力で制圧し、フランスでは「5月革命」があり、大学の改革、ベトナム反戦、労働者の管理問題の改善が唱えられた。アメリカでは4月にキング牧師暗殺事件があった。この曲を作ったビートルズのジョージ・ハリスンは、世界にもっと愛があれば、過ちを乗り越えられると考えた。歌手の加藤登紀子さんも、世界で「戦争と平和、自由を求める人たちとそれを圧殺しようとする力」があった1968年を歌手生活の始まりの年だったと回想している。
アメリカでは保守的な階層は社会の安定を望み、1968年の大統領選挙でリチャード・ニクソンに投票したが、ニクソンは学生運動を「反戦運動する人たちは海外の共産主義者の手先だ」と形容するなど学生運動に対する容赦ない姿勢を見せ、オハイオ州にあるケント州立大学では州兵が学生たちに発砲し、4人が死亡する事件も発生した。手段、方法、社会の性質こそ違え、国内での反戦運動を断固認めない現在のプーチン大統領の姿勢を彷彿させるものがある。

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ジョージ・ハリスンはこうした世界の混沌とした動静を意識し、「ホワイル・マイ・ギター」を作ったのは、普遍的な愛が世界でより強調されれば、対立や憎悪、紛争を乗り越えられるという願いを込めたからだった。何よりも若者をはじめ世界の多くの人々がビートルズの音楽に注目している時代だった。
君を見てわかったよ、愛は眠りに落ちてしまったと
僕のギターが静かに涙を流す間に
(僕は)君を見てわかったよ
でも僕のギターは静かに涙を流したまま
この歌詞は四行詩によって構成されていて、ペルシア詩のオマル・ハイヤームの『四行詩(ルバイヤート)』を連想させるが、ジョージ・ハリスン自身もハイヤームに傾倒していたボブ・ディランの叙情的スタイルと詩の押韻構成に影響されたと語っている。オマル・ハイヤームは、そのルバイヤートの中で人の世の無常と愛の祝福を表現した。
知は酒盃(しゅはい)をほめたたえてやまず、
愛は百度もその額(ひたい)に口づける。
だのに無情の陶器師(すえし)は自らの手で焼いた
妙たえなる器を再び地上に投げつける。 ―オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』(小川亮作訳)

著者 オマル・ハイヤーム (著),エドワード・フィッツジェラルド (英訳),竹友 藻風 (邦訳)
ビートルズの「ホワイル・マイギタージェントリー・ウィープス」が説く普遍的な愛は暴力の行使がいかに無益か、力による勝利がいかに幻想的で、空しいかを押してくれているように思う。ロシアがウクライナに侵攻し、アメリカではトランプ前大統領を熱烈に支持する潮流がある中で、この歌のメッセージはいよいよ普遍的な価値をもっているように思う。

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