バレンボイムは「西東詩集」「運命」でイスラエル・パレスチナの対立を乗り越えようとした

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Translation / 翻訳

 2019年11月9日、「ベルリンの壁」崩壊から30年の式典で、メルケル首相は、「人々が打ち破れない壁はない。自由、民主主義、平等、法の支配、人権擁護といった価値観は自明のものではない。何度も息を吹き込み守っていかねばならない」と語った。(朝日新聞、毎日新聞など)

残された壁の一部に献花するメルケル首相
https://www.dailymail.co.uk/news/article-7668289/Germanys-president-urges-Donald-Trump-reject-egoism-30th-wall-anniversary.html?fbclid=IwAR3_y16XPh-lTSIFPlj49dV794lUfI7MEz8apjtVOuxON5_slNxhxVsXttg


 同日、ブランデンブルク門の前で世界的指揮者・ピアニストのダニエル・バレンボイムがベルリン国立歌劇場付属オーケストラ、シュターツカペレ・ベルリンを指揮し、ベートーベンの交響曲第5番「運命」が演奏された。


必ず不幸や苦しみが
降りかかってくるものである。
しかし、それを自分の運命として受け止め、
辛抱強く我慢し、
さらに積極的に力強く
その運命と戦えば、
いつかは必ず勝利するものである。 ―ベートーベン


 メルケル首相とベートーベンの考えは一致するかのように、30年前の「ベルリンの壁」崩壊で人々は苦悩を突き抜けて歓喜に至った。

「類似点と逆説」
バレンボイムとエドワード・サイード
https://www.ilsaggiatore.com/libro/paralleli-e-paradossi


 ナチス・ドイツに虐げられたユダヤ人であるバレンボイムがベルリンの壁崩壊の式典でタクトを振ることは、和解や宥和というメッセージをドイツ社会に伝えているかのようだ。バレンボイムは、ドイツ西部ヘッセン州の平和賞を受賞したことがある。彼は、パレスチナ系アメリカ人のエドワード・サイードとともに、1999年に「西東詩集管弦楽団(West-Eastern Divan Orchestra)」を起ち上げて、イスラエルとパレスチナの和解を目指した。「西東詩集」は、ドイツの文豪ゲーテが1814年に発表した作品であり、ゲーテはペルシア(イラン)の詩人ハーフィズ(1326?~90頃)の詩に心酔し、またコーランのドイツ語訳を読んで、賛歌「マホメットの歌」を表わすなど、オリエント世界に傾倒していた。「Divan」はペルシア語で「詩集」の意味で、ゲーテは次のようにハーフィズを「西東詩集」の中で詠んでいる。


よし世界は沈みゆくとも
ハーフィズよ おんみと おんみとのみ
われは競わん 楽しみも苦しみも
双生児(ふたご)なるわれら与(とも)にせん
おんみのごとく愛しまた飲むことを
わが誇り わが生命(いのち)とせん
いざ響け わが歌よ おのが火に燃えて
汝は古くして しかも新しきが故に
<ゲーテ『西東詩集』岩波文庫、小牧建夫訳より>


 バレンボイムはベルリンの壁崩壊の際にたまたまベルリンに居合わせたが、人々の歓喜やエネルギーは忘れがたいと回想している。その直後にバレンボイムはシュターツカペレ・ベルリンの指揮者に就任することを要請され、オーケストラが東西ドイツの音楽家の混成になることを条件に引き受けた。11月9日夜の「運命」の演奏は、この世にある対立や紛争を乗り越えることをあらためて強調するものであった。


愛は栄光の降るところ
汝の顔より—修道場の壁に
居酒屋の床に、同じ
消えることのない焔として。
ターバンを巻いた修行者が
アッラーの御名を昼夜唱え
教会の鐘が祈りの時を告げる
そこに、キリストの十字架がある。
       -ハーフィズ

アイキャッチ画像は 

バレンボイムがベルリン国立歌劇場付属オーケストラ、シュターツカペレ・ベルリンを指揮し、ベートーベンの交響曲第5番「運命」が演奏された。
https://www.dailymail.co.uk/news/article-7668289/Germanys-president-urges-Donald-Trump-reject-egoism-30th-wall-anniversary.html?fbclid=IwAR0zrpeqnZZppPkjn6HC9pt5B1MQ7PulpFP250QlmVNdkWUx34jbV6Pgwec

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