日本でも有名な『千夜一夜物語』にはいろいろなヴァージョンがあり、1814年から1816年にかけてインド・カルカッタ(コルカタ)で出版されたものは全2巻で、各巻が100夜分の物語だった。
千夜一夜物語は、18世紀初めにフランスのA・ガランがヨーロッパに初めて紹介して以来、世界的な名作になった。シャフリヤール王は不倫をした妻を殺すのだが、女性嫌いになった彼は、国の若い女性と一夜をともにしては女性を次々と殺していく。見かねた彼の大臣は、二人の娘のうち姉のシェヘラザードを王に嫁がせ、彼女は殺されないために千夜にわたって王に面白い話を聞かせていく。最後に王が彼女を殺すのをやめることになる物語が主軸になっている。

このシェヘラザードの逸話のように、千夜一夜物語では賢くふるまう女性たちが多く描かれ、シェヘラザードがそうであったように、女性たちは、彼女たちを抑圧していた男性をその知恵でもってやがて克服するようになる。力ない女性たちがパワフルになり、自らの信条に従って自分自身の選択や決断を行うようになる。
他方で、強大で、傲慢な王が優しくなっていく様子は、無常観をも表しているかのようだ。シャフリヤール王は、絶対的な権力をふるっていたが、王の囚われの身であったシェヘラザードはその語るストーリーで王を虜(とりこ)にしていく。シェヘラザードは面白く、飽きない話で自身の生命の安全を考え、シャフリヤール王を楽しませるのだが、王の絶大な権力以上の力を彼女の物語はもつようになっていく。
千夜一夜物語は、シェヘラザードによる人間性や慈愛への訴えでもあり、物語によってシャフリヤール王を教育し、その女性を容易に殺すような野蛮で、冷酷な考えを改めさせていく。残酷で、殺人を犯すような人間は、人間性を喪失していると訴えている。物語全体がシェヘラザードの生きることへの執念と人を殺害することを止めるようにというメッセージが込められている。
シャフリヤール王の残酷なふるまいが、シェヘラザードの物語によって変わっていくことに、この作品のテーマがあるだろう。ヒューマニティーとは何か、生きることの意味とは何か、どうしたら良い人間になれるかなどをこの物語は教えている。

「アラビアンナイト」
https://cool-hira.hatenablog.com/entry/20171225/1514149623
千夜一夜物語のテーマは、国際社会に緊張や対立、紛争がある中で普遍的なメッセージを伝え、ヒューマニティーを表現するものであることは言うまでもない。
アイキャッチ画像はバレエ
シェヘラザード (リムスキー=コルサコフ)
https://dancetabs.com/2014/05/mariinsky-ballet-chopiniana-the-firebird-scheherazade-st-petersburg/?fbclid=IwAR1ecoJQhj3EA0ffTTWf3KkXhFMDX7joBoX-ipVHfA9hR9m0pxdwl6ZTjKI
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