ヨーロッパ・ルネッサンスに影響を及ぼしたアラベスク

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Translation / 翻訳

 植物や抽象的な曲線などが絡み合うアラベスクは、小アジアのヘレニズムの職人が生み出したとされるが、西暦1000年頃にムスリム職人によって様式化が進み、イスラムの装飾文化にとって不可欠なものとなっていった。イスラムの宗教的な理由から人物、鳥、動物は含まれないが、その植物・幾何学の連続模様は、しばしば文様の中に用いられるコーランの一節やアラビア世界のことわざなどとともに、イスラムの宗教的モチーフを巧みに描き出すことに成功し、その文様はムスリムたちの宗教心を駆り立てることにもなっている。「アラベスク」とはヨーロッパ諸言語で「アラビア風」を意味する言葉であり、イスラム美術の装飾文様一般を指すものだ。

アラベスク・タイル
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 アラベスクは植物文様から派生したデザインで、典型的な型ができ上あるのは9世紀のアッバース朝(750~1258年)やイスラム・スペインの後ウマイヤ朝(756~1031年)期からであり、モンゴルのイル・ハーン国支配(1256~1336年)以降は中国の文様も導入され、ティムール朝(1370~1507年)時代にいっそう洗練されていった。蔓草模様は「ルーミー」、草花文様は「ハタイ」という名称がつけられている(『岩波イスラーム辞典』)。「ブリタニカ」などの説明ではアラベスクは「アラビア風の唐草模様」とあるが、唐草模様は日本にシルクロードを通じてもたらされたと考えられている。

唐草模様
https://dora-neco.com/photo/funnycat0171.html


 アラベスクは、ルネッサンス以降の西洋の建築、工芸の装飾にも広く用いられるようになり、ルネッサンス期から19世紀までのヨーロッパでは装飾写本、壁、家具、金属細工、陶器の装飾にアラベスクが用いられていた。やはり枝や葉が絡み合ったデザインやこれらの自然の植物をモチーフにした装飾的で、華やかな左右上下の連続文様で構成され、また人間の姿もヨーロッパでは描かれるようになった。

ビーチ用アラベスク・カフタン
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 「アラベスク」という言葉がヨーロッパで最初に用いられたのは16世紀のイタリアで、アカンサス(ハアザミ)をデザインした連続曲線について用いられた。1530年にヴェネツィアで出版された『刺繍のサンプル』という本には「ムーア(北アフリカのムスリム)風の結び目とアラベスク」という表現がある。そこからヘンリー8世(在位1509~1547年)時代のイギリスに広がり、ハンス・ホルバインのデザインによるジェーン・シーモア(ヘンリー8世の3番目の王妃)のカップにはイスラム由来のアラベスク文様があった。

アラベスク
グラナダの断崖上ローマ時代の砦跡アルカサーバ
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 ヨーロッパでは一般に蔓草文様を「アラベスク」と言い、さらに特にイスラム的モチーフが強く見られるものを「モレスク(ムーア風の)」と別称される場合もある。モレスクも、中東で生れ、イタリアとスペインを介してヨーロッパ大陸に広がっていったが、モレスクはイタリアでは15世紀後半に最初に見られたという説もある。ルネッサンス時代のアラベスクは、左右の対称性をもち、また細部は自由に描かれ、装飾は均一ではないという伝統をもっていた。この時代のアラベスクは、作者たちの想像力が膨らむ中で、人間や植物の他に、動物、鳥、魚、などの要素も広く取り入れるようになった。

アイキャッチ画像はイラン・イスファハーン
イマームのモスク
アラベスクのドーム
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