フランスの植民地支配に抵抗したアルジェリアの国民的英雄はリンカーンから称賛され、アメリカの地名になった

　フランス植民地主義支配に激しく抵抗したアルジェリアの国民的英雄アブデル・カーデル（１８０８～８３年）は、１８６０年にシリア・ダマスカスの宗派間暴動でクリスチャンを救い、米国大統領となるアブラハム・リンカーンから称賛され、またカーデルが亡くなった１８８３年に「ニューヨークタイムズ」も「今世紀最も偉大な人物の一人」と形容した。カーデルの名前は、寛容と礼儀正しさ、理解を人々に伝えた人物として、アラビア語の定冠詞「エル（アル）」とともに、アメリカのアイオワ州の町名「エルカーデル」となっている。アメリカでアラビア語の地名はこの「エルカーデル」だけだ。

　フランスのアルジェリア支配は、１８３０年から１９６２年まで続いた。２０１７年のフランス大統領選で、マクロン候補は「フランスがアルジェリアで行ったことは人道上の罪」と発言したが、これに対して対立候補のフランソワ・フィヨン元首相は「フランスはアルジェリアで文化を共有した」と述べた。多くのフランス人たちは、フィヨン元首相のように、フランスのアルジェリア支配にその非を認めないことだろう。

　アブデル・カーデルは、フランスのアルジェリア侵攻の直後の１８３０年にアルジェリアに対する「ジハード」を宣言してアルジェリア各地の部族を団結させて一時はアルジェリア全土の６割を支配した。

　カーデルは、フランス支配に武力で抵抗したものの、宗教心に富む人物で、１４歳で「ハーフィズ（コーランを全部暗記した者）」になった。彼は、フランス支配に対する抵抗を「小ジハード」と表現したが、それに対して「大ジハード」は自分自身の欲望との闘いと考えた。これはイスラムの正統な解釈だが、カーデルによればフランスへの抵抗はジハードのほんの一部を構成するに過ぎない。

　彼は１７年間フランス軍と戦い続けたが、部族間の対立もあってアルジェリア勢力は弱体化し、１８４７年にカーデルも投降した。フランス中部のアンボアーズで獄中生活を送ったが、１８４８年にルイ・ナポレオン・ボナパルトがフランス第二共和制の大統領に就任すると、カーデルが東アラブ地域に行くことを認め、カーデルはオスマン帝国支配下のシリア・ダマスカスに移住した。フランスがアルジェリアへの帰還を認めなかったのは、再び反仏闘争に従事することを恐れたためである。

　ダマスカスで、神と人間の合一を目指すイスラム神秘主義の研究に没頭し、イスラム・スペインの神秘主義の思想家のイブン・アラブーの業績を学んだ。この学究生活は、彼にとってはエゴとの闘いである「大ジハード」だった。戦争とは彼にとっては、自らの利益しか考えない、人間の愚かさの表出にすぎなかった。１８６０年にダマスカスで起こった宗派抗争事件で、カーデルはキリスト教徒たちの救出に尽力し、ドルーズ派やムスリムの暴徒たちへの説得の前面に立った。なぜキリスト教徒を助けるのかと尋ねられると、ダマスカスのクリスチャンは、アルジェリアを侵略したフランスとは異なり、ムスリムの生活を脅かしていないと訴えた。

　カーデルはダマスカスで宗教を超えた寛容や共存を訴えたが、彼の墓はやはり宗教の共存を訴えたイブン・アラビーの墓所の隣にある。

私の心はあらゆる形態を受け容れるようになった。
羚羊（ガゼル）のための牧草地、キリスト教修道僧のための僧院
偶像崇拝者の聖地、巡礼者が周囲をくるくる回るカアバ神殿
トーラー（ユダヤの律法書）の刻印、クルアーン（コーラン）の書
私は愛の宗教を告白する。
愛の隊商がどこに向かおうとも、愛こそが私の宗教であり、信仰である。　―イブン・アラビー

アイキャッチ画像はアブデル・カーデル像
アルジェ市内
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