中村哲医師は「今ほど切実に、自然と人間との関係が根底から問い直されている時はない」と語っていた。自然と人、さらに人と人の和解を探る以外、人間が生き延びる道はないという中村医師の主張は、いまの日本人や世界の人々が切に傾聴すべきものであろう。
タリバンが政権下のアフガニスタンでは今冬も、人々は厳しい生活を余儀なくされると見られている。干ばつは食料だけでなく、飼料不足をもたらし、生活手段としての家畜まで奪われるケースが増えている。新型コロナウィルス、戦争、干ばつがアフガニスタンの食料危機をいっそう深刻なものにしている。アフガニスタンでは政変後の混乱によって、タリバンの新政府が干ばつなどの社会・経済危機に有効に対処できなくなっている。

気候変動はアフガニスタンにも影響を及ぼし1950年から2010年にかけてアフガニスタンでは摂氏1.8度上昇した。アフガン南部だと2度以上の上昇と見られている。これは世界平均の倍だが、アフガニスタンはアメリカや中国ほど温室効果ガスを排出する国ではない。(Vox News, Sept.15,2021)アメリカ人は年平均で一人当たり16メトリックトンの二酸化炭素を排出するが、それに比べるとアフガニスタン人の一人当たりは0.2メトリックトンに過ぎない。干ばつの否定的影響は、先進国よりもアフガニスタン人のほうがはるかに深刻だ。
さらに長年にわたる紛争によって政府の予算が干ばつ対策や食料政策に向かうことがなかった。戦闘によって農作物の種まきや作付けも思うに任せなかった。WFPによれば、アフガニスタンでは今年収穫が40%減少し、小麦の価格は25%上昇した。
気候変動が世界の紛争や難民危機をより深刻にしていることは疑いがない。シリアでも長期にわたる干ばつが地方の人々をダマスカスなど大都市に追いやることになり、彼らは2011年の「アラブの春」の反政府運動、政治変動の中核を担っていった。今年もシリアでは、穀倉地帯のハサカ県で干ばつが深刻で、凶作が懸念されている。
戦闘と干ばつは社会の最も弱者である子供たちに深刻な影響を及ぼすようになった。国連は、アフガニスタンの全人口3800万人のうち1400万人の子供たちが食料危機に直面し、200万人が栄養失調に陥っていると警告を発している。
https://news.un.org/en/story/2021/11/1106142
今年11開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)にもアフガニスタンの環境専門家たちは参加できなかった。政府が変わったという理由で、条約事務局から環境専門家たちの参加が認められなかった。アフガニスタンでは環境専門家たちも満足に活動できなくなっている。
アフガニスタンでは慢性的な干ばつで砂漠化も進行し、生産力が低下し、食料不足などの生活条件の悪化をもたらしている。アフガニスタン総人口の4分の3が農業人口だから生産性の低下が社会、経済に広範に深刻な影響を及ぼしている。

https://bunshun.jp/articles/photo/17358?pn=4
タリバン体制は昨年8月にスタートしたが、水の確保が政治の正当性の中心にあり、タリバン政権が安定するか、持続できるかは水の確保に関わっているといっても過言ではない。タリバン幹部たちが水の確保を重視していることは、中村哲医師の築いた灌漑システムの見学に訪れたことでも容易に理解でき、彼らの表情からも事態の深刻ぶりをよく理解している様子だった。
アイキャッチ画像は2008年、現地で凶弾に倒れた伊藤和也さんの写真展。現地で触れ合った子どもや大地の姿を伝える
https://shonan.keizai.biz/headline/1187/

すでに100万人が食糧・水不足
子ども160万人が今後栄養不良に陥る恐れ
ユニセフ、緊急支援のための追加資金求める
アフガニスタン南部の子どもたち。(2018年3月14日撮影)
https://www.unicef.or.jp/news/2018/0067.html
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