日本から伝わったアフガニスタンのミカンとこたつの文化

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 中村哲医師が不幸に見舞われたアフガニスタン・ジャララバード周辺で農業指導を1930年代に農業指導を行った日本人がいた。日本人農業技師の尾崎三雄氏は、1935年に農林省によってアフガニスタンに派遣されて、植林、灌漑、果樹栽培の指導を行い、柑橘類の栽培の指導も行った。その様子は、『日本人が見た‘30年代のアフガン』(図書出版 石風社、2003年)に詳しい。

 尾崎氏は、様々な野菜や果物を試しながら、比較的標高が低く、アフガニスタンでは気温も温暖といえるジャララバードでは柑橘類栽培が最も見込みがあると考え、日本からミカンの種子を送らせたり、現地の人々と共に柑橘類の栽培に取り組んだりしている。1936年10月7日、8日の手記には「柑橘栽培ハ最モ望ミアルモノナリ。之レニ全力ヲ注ギ第二ハ促成栽培デアル。」とある。ジャララバードはアフガニスタン東部で最良のミカンが採れるそうだからそのミカンには尾崎氏が日本からもち込んだミカンのDNAが受け継がれているのかもしれない。また、アフガニスタンには日本のようなコタツの文化もあり、シルクロードの東西で同じ冬の生活文化を共有しているようだ。

ジャララバードのミカン
https://twitter.com/bsarwary/status/487474259451969537

 現在、アフガニスタンは干ばつに見舞われているが、当時のジャララバードも水は潤沢とはいかなかったらしい。尾崎氏の農業指導でも、アフガニスタンでは水が少ないことに困惑していると書かれ、粘土質の土地に果物はザクロ、ブドウ、メロンなどの栽培を行い、その育成状況の観察に取り組んだ。異なる宗教と生活習慣をもつ「土人」(表現は原文のまま)との接触に戸惑う様子は婦人の書簡からも看てとれる。高地にあるとはいえ、夏の日中は日差しが照りつけるために、朝夕の涼しい時間帯に作業を行った。

 上記の本の中に収められる鈴子夫人の書簡によれば、カブールの日本公使館員以外に日本人は尾崎夫妻の到着で6人であったとあるからいかに日本人にとって馴染みのない、日本とは交流の少ない国であったかがわかる。

 ジャララバードは、標高600メートルでアフガニスタンの中では標高が低いところで、アフガニスタンの首都カブールとパキスタンのペシャワールを結ぶ交通の要衝にあり、アレクサンドロス大王や唐代の僧玄奘が通り、19世紀のアフガン戦争の際にはイギリス軍の拠点が置かれた。

 尾崎氏のアフガニスタンで蒐集した新聞の切り抜きなどの資料、文献、写真などは2001年の対タリバン戦争以降に遺族が公開して史料的価値も高いとされ、一橋大学の加藤博教授によって尾崎氏の業績を紹介するホームページも2007年に起ち上げられた。

http://www2.econ.hit-u.ac.jp/~areastd/ozaki/

 尾崎氏の派遣はアフガニスタン政府から当時の農林省への要請だったが、アフガニスタンは当時ソ連とイギリスの緩衝国であり、日本政府には特にソ連との対抗上アフガニスタンとの親密な関係の構築が必要と考えられたのだろう。和食をつくる材料はボンベイから取り寄せていた。

 一橋大学の尾崎のホームページにあった1935年8月24日付の「読売新聞」には「世界の尾根アフガニスタンへ 伸ばす技術の手」という記事で尾崎氏の派遣が紹介されている。記事タイトルからも戦前、アフガニスタンが日本にとっていかに遠い存在であったかをうかがい知ることができる。記事にはアフガニスタンのことを「同王国は人も知る如く、海抜900メートルという高原地帯(平均の海抜はもっと高いが)、外国の勢力を入れぬためにという政府の方針で鉄道は一本もないというおよそ辺隅の山国である。こうした山国だけに石油その他の鉱産物は無尽蔵といわれ、南から英国、北から露国(ソ連)が虎視眈々と狙っており、いわば英露両勢力の緩衝地帯だが、伸びる誘惑の魔手を尻目に東亜民族の黎明に棹さして日本こそ真の友邦と手を差しのべて来たのである。」

尾崎三雄氏
https://www.ide.go.jp/Japanese/Library/Search/Rare/ozaki.html

 こうした記事にも、尾崎氏の派遣が大川周明など日本の戦前の右派勢力が考えた大アジア主義の延長とも解することができる。尾崎氏の1935年9月20付の書簡には「亜細亜の友邦『アフガニスタン』国と手を結ぶべく派遣されたと書かれてある。アフガニスタンの南のインド帝国はイギリスの植民地で、イギリスはまた中国の国民党政府を支援していた。日本には敵対する中国を挟み、イギリス・インド帝国をけん制する意図があった。尾崎氏の活動にも戦前の世界のグレートゲームの有り様がうかがえるが、いまのアフガニスタンへの支援は、地政学的考慮はともかく喫緊に行わなければならない。

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