ナタリー・ポートマンの反発と、「極右」思想に行きついたシオニズムの悲劇

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 2018年4月、ハリウッド女優のナタリー・ポートマンはヒューマニティに貢献したユダヤ人に贈られるイスラエルのジェネシス賞の受賞を辞退した。授賞式は同年6月に行われる予定だった。賞はポートマンが女性の権利擁護に活動したことに対する評価だった。


 ポートマンの代理人は、彼女が当時イスラエルで発生している事件に困惑し、イスラエルの公式行事に出席することに心苦しさを感じていると述べた。つまり、イスラエルに赴き賞を受賞することは彼女の良心が許さないということだった。

ナチズムとシオニズムはしていることが同じ


 ポートマンが反発したのは、イスラエル軍がガザ・イスラエル境界におけるパレスチナ人の帰還を求めるデモに対して発砲し、非武装のパレスチナ人が犠牲になったことで、彼女の抗議の意思が込められていた。しかし、その後もイスラエル軍によるパレスチナ人に対する発砲は続き、2022年は10月末の時点で183人のパレスチナ人がイスラエル軍の銃撃によって亡くなっている。8月にはミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官が子どもを含む多数のパレスチナ人が殺害されたことに警鐘を鳴らしたほどだった。


 ポートマンはユダヤ人で、3歳の時にイスラエルを離れ、アメリカに移住した。アメリカのユダヤ人にはリベラルな発想をする人が多いが、現在のイスラエルは真逆になっている。


 「ニューヨークタイムズ」の2018年8月18日付の記事で世論調査の結果、77%のイスラエル人はトランプ大統領による米国・イスラエル関係を支持し、他方、アメリカのユダヤ人は34%しか支持せず、57%が反対だった。アメリカのユダヤ人たちはヨルダン川西岸地区のイスラエルの入植地拡大やイランの核合意からの離脱などの政治問題、またイスラエル国内の非ユダヤ人への差別、市民法や女性の権利に対して正統派ラビの保守的な見解が強い影響力をもつことなどがアメリカのユダヤ人たちを不快な想いにさせている。また、アメリカではZ世代がリベラル化しているがイスラエルはその逆になっている。アメリカのZ世代のリベラル化についてはピュー・リサーチ・センターの世論調査などがあるが、アメリカの中間選挙結果を受けて日本でも多くの記事が出るようになった。


 イスラエルの若い世代がタカ派、あるいは極右勢力を支持するのは、彼らが第二次インティファーダを経て、2005年のイスラエルのガザ撤退を見たからという見解がある。第二次インティファーダでは、2002年前後にパレスチナ人による自爆テロが多発し、またイスラエルが2005年にガザから撤退すると、イスラエルが支配する領土のいかなる譲歩もすべきではないという考えが生まれた。また、イスラエルの若い世代はイスラエルとパレスチナの和平を進めようとした1993年のオスロ合意を知らず、軍務を経た後に右翼思想に染まっていった。

パレスチナ人が礼拝中にイスラエル警察が侵入したアル・アクサー・モスク
2021年5月
https://twitter.com/yashebron/status/987727112961486849


 イスラエルでは18歳から34歳までの年齢の3分の2が自らを右翼と考えている。そして、11月1日の総選挙で躍進した極右勢力「宗教的シオニズム」の思想がイスラエル政治の主流となりつつある。「宗教的シオニズム」には、イスラエルのアラブ系住民をイスラエルから追放するという主張があるが、イスラエルの48%の国民がその考えを支持している。その背景にはアラブ系住民の出生率の多さがやがて「イスラエルはユダヤ人国家である」というシオニズムの性格を考えてしまうという恐懼があるからだ。

エルサレムのイスラムの聖地ハラム・アッシャリーフに立ち入るイスラエル極右政党「ユダヤの力」ベン・グヴィル党首。ひどいですね。


 しかし、イスラエルで極右思想が支配的になることについては、アメリカ政府の懸念を生むことになっている。最近、アメリカ上院外交委員会のロバート・メネンデス委員長は極右を含むイスラエルの右派政権がアメリカ・イスラエル関係を損ねるという警告を発し、ユダヤ系アメリカ人のハト派のロビー団体Jstreetは、極右がイスラエル政府を支配する中ではイスラエルに対するアメリカの無条件の支持を再評価すべきと主張している。


 イスラエルで極右が台頭したのは、アメリカがイスラエルの入植地拡大、イスラエル国内、あるいは占領地のパレスチナ人の人権侵害などに注意を払わなかったことも一つの重要な背景だが、イスラエル国内の異民族を徹底的に排除するという極右勢力の台頭は、ナチズムにも似てシオニズムが行きつくところまで行ってしまったというその悲劇的結末を表している。

エルサレム旧市街を行進するイスラエル極右勢力「レハヴァ(火焔)」
2022年5月29日
https://www.arabnews.com/node/2132666
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